2016年6月12日日曜日、岐阜県美濃市『美濃「道の駅」にわか茶屋』にて、劇団フルタ丸 2016年 本公演ツアー『ビッグマウス症候群』岐阜公演の3日目が行われました。下北沢から美濃にかけて、8日間11ステージに渡る本公演ツアーの総決算となる千秋楽公演です。
この日は梅雨らしくシトシトと雨が降る天気。しかし、そんな天気にもかかわらず開場時間には3日間で最も長い列が、会場となる大多目的室前にできました。開演前にフルタさんのお父さんとお話をしましたが、初日と2日目をご覧になった皆さんの口コミで見に来られた方や、中にはリピーターの方もいらっしゃると伺いました。確実に美濃の地でフルタ丸が何かを創り出している、そう実感させられました。
開演5分前、『美濃「道の駅」にわか茶屋』の駐車場はこの3日間で一番の混雑。ある意味この光景も見慣れてしまいましたが、どう考えても普通の光景ではありません。営業時間終了間際の道の駅ですから、、、。
初日は舞台上手、2日目は下手で観ていたので、今回は中央の最後列から観ます。2日目から座席数を増やしていたと思いますが、この日も満席。地方での日曜日の夜、そして雨。そのことを心配していたフルタさんでしたが、全くの杞憂に終わりました。さあ、『ビッグマウス症候群』の千秋楽公演が始まります。
登場人物は劇団フルタ丸の6人、どこか地方にある風見町の心療内科の診察室から物語が始まります。
精神科医の三浦明日夏(篠原友紀)と、IT企業のサテライトオフィスで勤務するために東京からこの町に来た刃根一哉(工藤優太)。刃根を診察した三浦は彼に対し『ビッグマウス症候群』という診断結果を下す。その診断に納得のいかない刃根は待合室で、同じく『ビッグマウス症候群』と診断され投薬治療を受ける患者と出会う。かつてはそのビッグマウスで周囲を騒がせていたが、今は『レミングス』なる薬によりビッグマウスはなりを潜め、穏やかな生活を送っている4人だ。
一度も風見町を離れず、この町の民芸品であるかざぐるまの工房で働く鈴本元(フルタジュン)。トランペット奏者を目指し上京するも夢破れ地元に戻り、実家のリサイクルショップを手伝いながらひっそりと暮らす巻田哲生(宮内勇輝)。今は駆け引きを必要としない運送屋の集荷ドライバーだが、かつては生き様そのものがギャンブル的だった井口久紀(清水洋介)。子役オーディションに抜擢され一世を風靡したが一発屋に終わり、今は地元の児童劇団で講師を務める森田りか子(真帆)。そんな『ビッグマウス症候群』患者の4人に出会った刃根。1日3回食間に薬を飲む4人に対し、自身も『ビッグマウス症候群』と診断され薬を処方されるが、彼だけは絶対に薬を飲むことはなかった。
そんな最中、刃根は風見町が隣町の薫東町に吸収合併されるという話しを聞く。その合併話を推し進めているのは精神科医・三浦の父親・福本泰三であるという事実も知ることに。風見町で1年間過ごす中でこの町に対して何かをしたい思いを募らせていた刃根は、巻田を間近に迫った町長選挙への立候補へ焚き付ける。24年間無投票により町長が決まっていた風見町。この町を出て上京した巻田だからこそ感じるふるさとへの想い、、、この町で平穏に暮らすと決めていた巻田の心は大きく揺さぶられる。
一方、動き出した刃根は止まらない。三浦に薬は飲まないと宣言、さらには町長選挙に候補者を立てると宣戦布告をする。
『巻田は絶対に立候補する』
その直感だけを頼りに、井口に選挙カーの運転手兼選挙事務局長、鈴本には勤めるかざぐるま工房を選挙事務所に、そして、森田にはウグイス嬢を勤めてくれるよう、即座に行動を開始する。
刃根が3人を巻き込みながら突進する最中、三浦は父親である福本に町長選に立候補する人間の存在を伝える。彼女は精神科医としてこの町の平穏を保ち、ビッグマウスな人々の口を封じ新たなる扇動者を生み出さないことで影で父を支えていた。父との電話で話す彼女の元に、巻田が診察を受けにやってくる。中学時代は同級生だったが、今は患者と医師としての関係でしかない2人。そんな巻田が勇気を振り絞り、三浦に問いかける。風見町に対する想いを全て吐き出した巻田、それまでとは一変し一切の迷いの無い表情を見せている。焦る三浦に巻田はこう伝える。
「対立候補は、この俺だ」
刃根は鈴本のかざぐるま工房を選挙事務所にしようとやりたい放題。困惑する鈴本の元へ、井口と森田がやってきて、本当に巻田が立候補するのかと刃根に詰め寄る。4人のやりとりが紛糾する中、スーツ姿に『巻田哲生』のたすきを掛けた巻田が現れる。本気モードの巻田に一瞬で飲み込まれる、井口。そして、選挙は未経験の刃根が感覚だけで話す選挙戦略は、その場にいる4人を納得させられる見事な考えだった。
程なくして選挙戦が始まる。最初は誰もいない場所での街頭演説、調子がつかめずビッグマウスがなりを潜めた巻田をよそに、井口がそのビッグマウスっぷりを遺憾なく発揮、見事な演説を行う。風が彼らに吹き始めた、いや、自らの口で風を吹かせ始めたと言うべきだろう。
翌日、井口がハンドルを握る選挙カーに乗り込み町民の元へと向かおうとする巻田と刃根。そこに、前日は姿を見せなかった森田が現れる。それまでとは明らかに雰囲気が違いオーラを放つ彼女は、刃根が準備したセリフは全て覚えたと言い放ち、マイクを握る。巻田の候補者としての特徴を的確に表現したセリフを完璧に読み上げる森田、だったが、途中からは自らの身の上話に脱線。しかし、その話しは彼女を受け入れ続けてくれていた風見町と周囲の人たちに対する感謝にあふれる、素晴らしい内容だった。彼らには信じられないほどの風が吹き始めている。
たくさんの人たちが集まった選挙事務所での演説を経て、巻田にとって最後の選挙演説が行われる。政策や公約をうたうような内容ではなく、自らが考えていること感じていることを自分の言葉で町民に伝える巻田。そこにあったのはやはり風見町に対する感謝の気持ちそのものだった。この町を守りたい、この町の名前を残したい、そして彼はこう言い放った。
「俺はこの町で死にます!」
その想いは演説を聴いていた町民に届き、大きな拍手が湧き起こる。やりきった、その充実感に満たされる巻田の元に、なぜか三浦が現れる。彼女を追い返そうとする刃根、しかしそんな刃根を制止する巻田。三浦が町民に向かって一つずつ言葉を選ぶように話し始めた。自分は現職町長である福本の娘であり、当然福本に一票を投じる。町長として信頼し、父親として誇りを持っていることを話した彼女。しかし、それに続く言葉は同級生時代の巻田であり、まさに今現在の巻田を言い表したものだった。そして、彼女はこう締めくくった。
「私は彼の町政を見たい気もします。対立候補の娘にそう言わせるだけの男です」
町長選挙は終わり、指揮棒を持った鈴本と大きな風車を持った井口・森田・刃根が現れる。鈴本の夢であった、職人でしか作ることのできない風車を勢いよく回すため4人は集まっていた。しかし、彼らの元には風は吹かない、、、鈴本の夢の実現にはまだ時間がかかるようだ。
時を同じくして、三浦と巻田が再び診察室で向き合う。「今悩んでいることは」との三浦の問いかけに、「俺を抱き込もうとする土建屋が後を絶たない」と巻田は答える。6期24年続いた福本町長から巻田町長へ、「もう、ここには来なくていい」そう伝える彼女に、巻田はこう伝える。
「ここで、おまえと話がしたいんだ」
この町に、新たな風が吹き始めた。
長い公演ツアーが終わった。この2日間は表現が難しい不思議な表情を見せていたフルタさんでしたが、この日は緊張から解き放たれた表情を浮かべていました。役者の皆さんもそれぞれ安堵の表情を見せてくれました。
その中でも、三浦役を演じた篠原さんの解放っぷりには驚かされます。序盤の凄みを纏った表情・演技から、中盤の三浦の素の気持ちを見せる表情、そして、ラストの自ら何かを突き破るような表情まで、今回も彼女には驚かされっぱなしでした。下北沢で観た初日とは何から何まで違っていたし、岐阜公演の2日目からも変わっていました。しかし、それは劇団フルタ丸の全役者に言えることであり、ここまで変化し続けたフルタ丸の本公演は初めてでした。
さて、物語自体についていくつか。下北沢で初日を観た後、フルタさんにはある程度このお話と美濃の関係について伺っていました。美濃市とお隣の関市との関係、そして、美濃市が置かれている現状について。事実、美濃市は2014年に19年ぶりに市長選挙が行われており、物語に出てくる風見町は美濃市をモデルにしています。それだけに、このお芝居が美濃市で上演される事実に、正直、恐れを感じていました。このお話が、地元でどのように受け止められるのか、そんなことばかりを考えていました。
しかし、劇団フルタ丸の想いはしっかりと観劇頂いた美濃市の皆さんに届きました。観劇後、真剣にアンケートを書く姿や一緒に来た人と感想を話しながら車に向かう光景、そして、フルタさんやご両親に感想を伝える光景も。噂を聞きつけて足を運んでくれた人、リピーターとして観に来てくれた人、劇団フルタ丸が演劇を行ったという事実はしっかりと美濃の地に刻み込まれました。
そして、物語のなかからもう一点、それは精神科医の三浦と町長となった巻田の関係。お芝居の中ではその2人の関係は、中学時代の友人、そして後に医者と患者という関係でしか描かれていませんが、それだけではないと感じる描写がいくつかありました。うーん、巻田は三浦、いや旧姓福本が好きだったのかなぁ、、、。福本はお芝居の中でも話していたとおりで、巻田に対してある種の憧れを抱いていたのかもしれないけど、、、。
わからない、わからない。わからないから、私は6月19日(日)にARENA下北沢で行われる【トークライブ「遠足前夜」vol.2】に行きます。
トークライブ「遠足前夜」vol.2
出演:劇団フルタ丸
日時:6月19日(日)18時オープン/18時30分スタート
料金:2000円+500円(1drink)
場所:ARENA下北沢
予約:予約フォームからご予約頂けます。
問い合わせ:info@furutamaru.com⇒公式情報
劇団フルタ丸のファンはもちろんですが、今回の本公演を観て心が動いた方にぜひオススメしたいイベントです。下北沢で行われた公演はそれで完成していましたが、美濃で上演することによりこのお芝居は新たなる地点に到達した、そう言っても過言ではないと思います。ほとんどの方はそうだと思いますが、美濃の公演を観ることができなかった皆さんに是非ともお越し頂きたいイベントです。
改めて、劇団フルタ丸の皆様、スタッフの皆様、そして美濃でお手伝い頂いた皆様、フルタさんのご両親、本当に本当にお疲れ様でした。劇団フルタ丸は確実に新しい道を歩み続けている、そう感じられる公演を自ら経験することができ本当にありがとうございました。
今度は美濃に遊びに行きます。美濃和紙・うだつの上がる町並み・豊かな自然・美味しい食・そして人、この土地にはステキなモノがたくさんあふれていて、とてもではありませんが1日では満喫しきれませんでした。また、必ず美濃に行きます。
そして、美濃で再び劇団フルタ丸の演劇を見ることができるその日を、心待ちにしています。