フルタ丸講談『枡目街交差点』 フルタ丸講談『枡目街交差点』

[インタビュー]フルタ丸講談『枡目街交差点』

2023年7月28日(金)29日(土)の2日間にわたりHalf Moon Hallにて、フルタ丸講談『枡目街交差点』が上演されます。

フルタ丸講談『枡目街交差点』
フルタ丸講談『枡目街交差点』

疾風の如きロマンチックなんちゃら

[STORY]

小説家志望の女は面白味のない物語を二本同時執筆していた。
平凡な主婦が日々の小さな幸せに気づくハートウォーミング小説『リトルハッピー』。
一人娘の殺害事件を捜査する堅物な中年刑事のハードボイルド小説『足跡』。
出会うはずのない二人の主人公がすれ違う。
原稿用紙の片隅、枡目街の交差点で。

[作・演出のフルタジュンより]

昨年、二十周年公演が終わってから劇団のことを何も考えられない時期があった。苦しいけど誰にも相談できず悶々と。持続可能な劇団について考えれば考えるほど身動きも鈍くなっていった。演劇ってこんなに大変だったっけ?という迷いの中、どうしてもやりたかったことを思い出した。演芸の講談だ。寄席で、動画で、講談創作に携わる現場で、コロナ禍の自分はすっかりその魅力に射抜かれていた。いつか劇団で講談のような演劇、演劇のような講談を創ってみたい。これをやらぬまま終わるのは悔し過ぎると考える内に気分は上向いて行った。講談の様式美やケレン味と培ってきたフルタ丸の悲喜劇をミックスさせたカタチを目指したく「フルタ丸講談」と名付けた。劇団による俳優と演出と台本でどこまで迫ることができるのか。迫れずに終わるのか。迫りたかったものは何なのか。真夏の下北沢でご覧頂きたい。

フルタ丸講談『枡目街交差点』上演に先立ち、長年劇団フルタ丸を追いかけ続けているしもブロでは、作・演出のフルタジュンにインタビューを実施。講談の魅力、演劇との違い、そして昨年の本公演から今回の講談をテーマとした作品に至った経緯について、お話を伺いました。

ーーー今回はのテーマは講談とのことですが、そもそも講談とはどのようなものなのでしょうか

フルタジュン(以下、フルタ): そもそもなぜ講談に興味を持ったのかお話しすると、古舘伊知郎さんが「トーキングブルース」というしゃべりだけのライブをやっていて、六本木の街をカメラ目線で実況する「六本木実況」というものがあり、言葉だけで何かを描写する実況芸がすごく好きだったんです。そのことをFacebookに書いたところ、今一緒にお仕事をしているインコさんの目にとまり、アレが好きだったら今度スタンダップコメディをやるので演出をしてくれないかと声を掛けて下さったのがはじまりでした。インコさんはスタンダップコメディですが、その中のネタで歌舞伎町のロボットレストランを実況するネタがあったりして、2015年くらいから講談に一割くらい足を突っ込んだ状況で、この芸は魅力的だと感じていました。

そしてコロナ禍に入る直前の神田伯山さんが売れはじめた頃、「グレーゾーン」というオリジナルの講談があって、それをYouTubeで見てたらさらにはまってしまいました。その時点でフルタ丸で講談をやりたいと思いましたがちょうどフルタ丸のメンバーが抜け、さらにはコロナ禍にも突入してしまい、結局メンバーに布教しましたが形にすることができないまま時間が経ってしまいました。一方で、仕事で自分の母校で講談師を迎えたエンターテインメントを作ることに手を出し始めて、同郷の神田京子さんとお仕事をさせていただくことになりました。神田京子さんは古典もやられるのですが、創作だったり新作と言われるものも作られていて、一緒に講談の現場でお仕事させてもらう中で、ついに自分の手で講談をやりたいとの思いに至りました。

そのタイミングでさらにメンバーが減ったことも大きくて、選ぶ選択肢として講談にたどり着いたということもあります。やりたかったことが今までの本公演のスタイルではなく、劇団としての持続可能性についても考え新しい形の表現にフルタ丸を持っていきたい中で、フルタ丸講談が生まれました。

ーーーそもそもインコさんとは、そのような形で出会っていたのですね

フルタ: そのインコさんですが、昨年伝承ホールで開催された単独の独演会の際に初めて講談という芸をやったのですが、アメコミのバットマンの世界を講談で講釈する「バットマン講談」がお客さんの反応がよくて、そのことも含めて講談をやらざるを得ないと。

ーーーそういう流れだったのですね、その一方で講談についてはサッパリ分からない。正直な話、落語ですらサッパリ分かっていないのですが、、、

フルタ: 落語は複数の登場人物にそれぞれなりかわり会話を成立させるのですが、講談もその瞬間はありますが、それ以上に地の文である描写をひたすら喋り続ける。神田伯山さんに言わせるとそこまで厳密には分けられないとのことですが、ストーリーを聞かせるのが講談ですね。会話劇を聞かせるのが落語で、物語を読んで聞かせるのが講談です。

そして、先ほどお話しした古舘伊知郎さんの実況芸に戻ってくるわけですが、講談の一番魅力なのは実況芸だと思っています。誰もが知っている「桃太郎」の話を、どのような話の強弱やイントネーションで伝えるのか、その伝え方にエモさを感じてしまったわけです。音楽に感じていて演劇にはなかったものを講談に感じてしまった、これはなんてエモいんだと。

ーーー役者の皆さんにとって、演劇と講談の違いはいかがでしょうか

フルタ: 役者への負担は大きいですね。真打ちに行くまでに12、3年はかかるのですが、それを数週間でやろうとしている。でも、そこは一つの挑戦であり、芸として13年かけて磨くものを俳優の演技力と演出家の演出力でどこまで迫ることができるのか。よく俳優さんが落語をされることもありますが、やはり落語家には迫れない。技術だけではなかなかたどり着けない、どれだけ達者な人でも演芸というものには容易に太刀打ちできないことは分かっているのですが、だからこそ挑戦したいのです。

最初メンバーはあまりテンションが高くなかったのですが、半ば説得する形ではじめました。大変だということは、もちろん役者も感じていたので。

ーーー役者の皆さんにとっては、いわゆる演技を封印されるわけですよね

フルタ: 今回のフルタ丸講談でやるのは講談師というポジションの人の他に、現代劇が並走していて、ただの講談でもないし演劇でもない、いいとこ取りをしています。なので、俳優だけに徹している役者もいます、その一方で負荷のかかる役者もいますが。

ーーー講談と演劇が併走する、とても興味深い内容になりそうです

講談について一通り話を伺いましたが、この時点でもいまいちピンとこないので、もう少し講談について深掘りさせていただきました。

ーーーそれにしても講談ですか。私自身、これまで全く縁がなかったので全くイメージが湧きません

フルタ: 講談ってなんだろうという所からはじまりますからね。実際、講談師って80人くらいと言われていて、しかも女性が結構多い世界なんです。一方で、落語家は5、600人くらいいるんですよね。

ーーーそんなに差があるのですね、女性が多いというのも特徴的ですね

フルタ: いわゆる普通の講談は古典で、軍記物の合戦、源氏物語などの激しい合戦の両軍を言葉だけで描写していく、修羅場読み(ひらばよみ)というのが講談で一番スポットライトが当たる部分ですね。落語と一番違うのは張扇(はりおうぎ)で釈台(しゃくだい)という机を叩くと音がなるものを持っていて、叩きながらリズムを取ってしゃべっていく。どこで叩くのかルールがあるわけではなくて、自分の間で叩いていて、そこが楽器を演奏しているようなドラムみたいなものなのかなと。

ーーーちなみに講談は下北沢で上演されたことはあるのでしょうか

フルタ: 神田京子さんが、『しもきた空間リバティ』がなくなる直前までされていたみたいです。

*『しもきた空間リバティ』は2020年末で営業を終了、新たに下北沢駅近くに『サンガイノリバティ』をオープンしました

ーーー『しもきた空間リバティ』と言えば、劇団フルタ丸でもかつて公演されていましたよね

フルタ: リバティの多賀谷さんが、僕も神田京子さんも実は長い知り合いだったと最近知りました。

ーーーそんな繋がりもあったとは。演劇はもちろんのことながら、下北沢はお笑いシーンもアツいですが、それとは全く繋がっていない講談というものに触れられるのは貴重な機会だと感じています

フルタ: 僕が大きなことを言うのもなんですが、講談の凄さや魅力をもうちょっと人に伝えられないかなと。講談という名をつけてやるからには自分が講談に触れて感じたエモさを、自分自身が考えている分かりやすい形にして多くの人に伝えられる機会にしたいです。

ーーー先ほどフルタさんが演劇にはなくて音楽にあるエモさが講談にはあると話されていましたが、私自身は演劇も音楽も観てきて演劇にもエモさはあると感じています。そのあたりをもう少し詳しく聞かせていただけますか

フルタ: 結局の所、僕は違ったということだと思いますが、この20年間はもっと演技演技・演劇演劇で考えていました。台詞を音みたいな感じでは全く捉えていなく、台詞の意味を全面に考えていましたが、エモさは理屈じゃないと思っていてロジックで作った時点でかけ離れてしまっている。ロジックで演劇を作り続けた20年でしたが、講談に向き合ってうまく剥がされてエモさにたどり着きたいなと。

ーーーそして、今回の会場は『Half Moon Hall-下北沢』とのことですが、こちら選ばれた理由について

フルタ: 抜け感のある天井の高いところでやりたいと思っていて、実はコロナの直前に下見に行っていて選択肢のひとつになっていて、その後コロナに突入して演劇ができず離れてしまっていました。

今回の再始動に際し、劇場ではないところから始めるのもいいと思い、この会場を選びました。すごく不思議な場所で、10年前に今のオーナーさんになって元々画廊だった場所を表現する場所に変えていったそうです。

ーーー私自身『Half Moon Hall』では初観劇になるので、とても楽しみです

実はフルタさんのインタビューは昨年の本公演後にも取っていたのですが、そのインタビューは様々な理由からお蔵入りとなっていました。そのことについて、改めて話を伺いました。

ーーー昨年の本公演後に話を伺った際に、フルタ丸はどこに行くのだろうという雰囲気が、フルタさん本人から出ていましたよね

フルタ: 分かっていなかったですよね、なんならしばらく劇団活動を休もうかと思っていました。

ーーーそれをすごく感じてしまって、下手なことは書けないと思ってお蔵入りにしてしまったのですが、今回の作品のリリースを読みたどり着くべき場所にたどり着いたのかなと感じました

フルタ: フルタ丸をやらないという選択肢は無い、そのことに気がつきました。この1年で、やらないではいられないことを感じ、自分のアイデンティティに劇団が入り込みすぎていて、外注で演劇を作るお仕事もしていますがそれとは似ているようで全然違う。劇団をやらないと自分が楽しくない、改めて大事な場所だと思いました。

ーーーもしかしたらしばらく活動はお休みかなと思っていましたが、1年で戻ってきて挑む内容が内容なのでこれは改めて話を聞かないととお思い、今回のインタビューに至りました

フルタ: 正直、1年前に取材してもらいながら、記事は出ないでくれと思っていました。何も語っていないしビジョンも無かった、意味のない記事になってしまう。でも、取材してもらった手前、出さないでくれとは言えなかったので、、、。

ーーー純粋にフルタ丸のことを考えると、これは出せないなと。読んでくれた人がもやもやしちゃう可能性がありましたからね。それだけに、今回お話が聞けたのは嬉しいですし、作品にも期待しています。それでは最後に言い残したことがあればどうぞ

フルタ: 言い残したことは、、、今回の公演や講談についての話をこのような熱量で話す機会が無かったので、本当に嬉しいです。

ーーーこちらこそ、講談と演劇にまつわるお話が伺え楽しかったです。もちろん、公演も楽しみにしています。ありがとうございました


インタビューの中でフルタさんが紹介していた、神田伯山さんの講談「グレーゾーン」をYouTubeで観ました、とてつもない世界がそこには広がっていました。こんなに笑えるものなのか、そして心が動かれるものなのか講談とは、、、。

落語でもない、もちろん演劇でもない、講談という世界。そして、この世界に引き込まれ演劇人としてフルタ丸講談を創り上げたフルタジュン。『枡目街交差点』という作品に対する期待は限りなく高まりました。私が観劇するのは最終日、しもブロにレビュー記事を掲載するのは全てが終わってからになります。2012年から劇団フルタ丸を見続けているいちファンとしても、フルタ丸講談『枡目街交差点』は見逃せません。チケットは残り僅か、ぜひその瞬間に立ち会ってほしいです。

フルタ丸講談『枡目街交差点』

作・演出:フルタジュン
出演:真帆・篠原友紀・山田伊久磨
日時:
 2023年7月28日(金)/29日(土)
 28日(金)19:30 *平日割引
 29日(土)13:00 ★アフタートーク(フルタジュン×真帆×篠原友紀×山田伊久磨)
 29日(土)17:00 ★アフター短編劇(短編『ストロボライツ』を限定上演)
 ※受付開始・開場は開演の30 分前
 ※「アフタートーク」「アフター短編劇」は、本編終了後に10 分程度を予定
会場: Half Moon Hall(北沢4-10-4) ※下北沢駅・小田急線「東口」、京王井の頭線「京王中央口」改札から徒歩8 分
チケット:
 ・前売/当日:4,000 円
 ・平日割引 :3,500 円(28 日19 時半の回)
 ※前売り日時指定・全席自由
 ※受付開始・開場は開演の30 分前
 <チケット取扱い>カルテットオンライン
 【リピーター特典】
 複数回お越し頂くお客様に感謝の気持ちを込めて特典をご用意いたしました。二回目のご来場時に、受付にて一回目のチケット半券をご提示下さい。非売品グッズをプレゼントさせて頂きます。
 ※知人・ご友人からの譲渡チケットはリピーター特典の対象にはなりません。
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