下北沢を拠点として活動している『劇団 フルタ丸』。2018年の本公演『寂しい時だけでいいから』が、5月30日(水)から6月3日(日)まで浅草九劇で上演されます。

浅草での公演ではありますが、下北沢に根ざした劇団であることもあり、上演に先立ち主宰のフルタジュンさんに、今回の見どころを伺いました。が、途中から話しはとんでもない方向に突き進むことになります、、、。

劇団フルタ丸 2018年 本公演『寂しい時だけでいいから』

---今回は下北沢ではなく浅草の劇場『浅草九劇』での上演ですが、その経緯についてお聞かせください

フルタ: 2年前にクォータースターコンテストで『浅草九劇』から賞を頂きその賞典が劇場利用の権利で、今回本公演を上演することになりました

---あ! あの時の入賞の賞品だったのですね! まだ、『浅草九劇』には伺ったことがないのですが、新しい劇場ですよね

フルタ: 新しいですね、昨年オープンしたばかりでピカピカです。ホテルが併設されていて、劇場利用者は安く泊まることができます

---最近、この劇場の名前を見ることが多くなってきましたが、浅草には他に劇場はあるのでしょうか?

フルタ: 浅草橋に以前ありましたが、いわゆる小劇場はないと思います

---浅草というと、演劇というより演芸の街という感じですよね

フルタ: 寄席もいっぱいありますよね

---あまり演劇というイメージがなかったので、凄い場所で公演をされるなと思いました。今回の作品について、「浅草」という要素は含まれますか

フルタ: はじめはそのことを意識していましたが、途中から「浅草」という事にあまり引っ張られない内容になりました。街とのリンクを考えていましたが、浅草九劇で2本観劇してどちらも「浅草」という街とリンクしている内容で、みんな関連づけてくると感じで、逆にその点については冷めたところがあります

---発表されているストーリーからは「浅草」は全く感じられませんね、タイトルは『寂しい時だけでいいから』で、舞台は「住宅展示場」とのことです

フルタ: 両方ともずっと温めていたものです。僕は「住宅展示場」という場所が大学時代から大好きで、なんの理由もなく住宅展示場に行って新しい家を見たりしています。住宅展示場って小さな街みたいになっていますよね、あれが夜になったらあの家とかどうなるんだろうと妄想して生きてきた人間なのです。いつか演劇作品に落とし込みたいと思っていて、タイトルは別の作品のイメージだったのですが、ここに来てマッチしたという感じです。考えようとして出てきたというよりは、するっと出てきたタイトルです

---日替わり出演者とのことで、5日間とも別の役者さんが登場するわけですよね

フルタ: 日替わり出演者それぞれにオリジナルストーリーを用意していて、全員違う台本になります。台詞も違いますし、役どころも違います

---日替わりで出演者を出すということは、早いタイミングで決まっていたのでしょうか

フルタ: 劇団でしっかりと話し合いました。6人だけでやる公演が3回続いたので、6人だけでやることにプラスアルファとして浅草のお祭り感的な、ストーリー意外のところでお祭り感を興行として持たせたいと思い、作品ともリンクするということで日替わり出演者を出すことにしました。

---出演される日替わり出演者に共通項がなさ過ぎですよね

フルタ: 全くないです、これだけは言えることなのですが手練れだけしか呼んでいません。完全に手練れしか呼ばない、それが劇団全員で決めたルールです。演技はいまいちだけど味はあるとかではなく、劇団の求めていることを確実にやってくれるエネルギー・技術・経験がある方にお願いしています

---そういう意味では日替わり出演者にかかるプレッシャーよりも、フルタ丸の6人にかかるプレッシャーの方が大きそうですね

フルタ: はい、大きいですね

---それにしてもストーリーが本当に巧妙です

フルタ: 「現代版マッチ売りの少女」というのがどこか頭の中にあると感じています。東京における孤独さや寂しさが作品の大きなテーマになるので、それを抱えた警備員がそういうものと出会ってどうなっていくのか、それが大きなストーリーの筋です

住宅展示場 イメージ

---今回のストーリーの中でどうしても気になる点が「住宅展示場」なのですが、東京にもたくさんあるのですかね

フルタ: ありますね。住宅展示場が子供も遊べるような企画をしていたりして、その間に親が住宅を見て回るという感じです。でも、僕は全くそんなことは関係なく、普通に1人で行ってますが

---凄く疑問なのですが、1人で住宅展示場に行くという状況がよくわからないです

フルタ: 見せ物っぽい感じが好きなんですよね。あのニセモノ感が、スゴく琴線に触れて、、、。ちょうどこの作品を作るときに清水さんと話をしていて、彼が高校時代に自転車で走っていて街があると思って入ったら、スゴく広い街(住宅展示場)でどこまで行っても出られない、それで考えてみたら住宅展示場の中だと気付くわけですが、そういう話を聞くだけでものすごくわくわくする。日常から非日常になる境目が清水さんは限りなくわからなかったということなんです、街だと思っていたら街じゃない、人工的に作られて家が並んだニセモノの街で、そういう場所がスゴく好きで、そういう所で起きうる話しが好きでやりたくて仕方がなかったのです。説明が難しいのですが

---なんというか、好きというのを超えて嗜好的な、、、

フルタ: 住宅展示場のニセモノの街感というのがすごくて

---どちらかというと、家を買うというものすごく生々しい現場のイメージが強くてどちらかというと苦手ですが、フルタさんは全然違うところを見てますよね

フルタ: 僕は夜になったら実は人が住んでるんじゃないかって想像しています。僕らが知らないだけで夜になったら灯りがついて一軒一軒に人が暮らしていてもわかりようがない、でもいるんじゃないかという妄想ですね

---、、、全く考えたこともないです。営業終了後のデパート売り場的な、言葉にできない恐怖があります

フルタ: 僕は怖さよりはわくわくする事の方が強いです、何もないかも知れないけどあるかもしれない、それは誰も調べようがない

---だから、自らそれを創り出すと

フルタ: それに対する答えを出す感じですね。長年温めていた住宅展示場への憧れと妄想がめちゃめちゃ入ると思います

---生きてきた中で住宅展示場に対するよくわからない愛を感じている人に初めて出会いました、、、しかも、何度も何度も行っているとか

フルタ: 何度も行っていますねー、いやー、行っちゃうんですよね、家を買うふりをして。瀬田とか、世田谷通り沿いの大蔵とか

---東京で一軒家とか確実に買えないですよね

フルタ: 買えないですね(笑)、一軒家建てる人とか限られていますからね

---世田谷区内下北沢周辺だと土地すら買えないですよ、土地買ったら家は買えない、いや土地自体絶対に買えない金額です。そういう意味でも住宅展示場には東京では一度も行ったことがないですね、愛知の実家では強制的に連行されたことがありますが、、、。実は住宅展示場の家って凄く豪華な間取りなんですよね、こんなのお金かかりすぎて建てられないみたいな

フルタ: 憧れを引き上げるんですよね、来る人の生活のグレードを引き上げてくれる、夢を見せようとしてくれる。でも、それがある意味嘘くさい、生活感がなくって、そこにぐっとくるんですよね。いやぁ、いいですよねー。住宅展示場で舞台をやりたいくらいです、一軒丸々借りて

---一軒家でやっている人たちいますよね、、、ちがう、家じゃないんだ住宅展示場なんですよね

フルタ: そうなんです! 住宅展示場なんです!

---なんというか、フルタさんとの付き合いもまあまあの年数になってきましたが、新たな異常嗜好を知ってしまいました、、、

フルタ: 確かに、異常嗜好ですね。人にそんなに語ってきてなかったです、奥さんも知らないし。僕の中にだけある感情、この作品について劇団員に話しているときも今話した感情が伝わっているのか正直わからないです、このドキドキ感が

---いや、全然わからないです。どちらかというと興奮してるフルタさんを目の当たりにして、こっちがドキドキしていますよ

フルタ: 夜がいいのです。夜に住宅展示場の近くを通ると絶対に見てます、窓に明かりがついてないかとか

---こわい

フルタ: 近づいてみたり、写真撮ったりしてますよ

---こわい、こわいです、住宅展示場ではなくフルタさんが(笑)。なんとなくこの話は不思議というか不気味な部分があると思っていたのですが、わかりました。脚本家の異常な想いと愛が詰まっていたということですね

フルタ: 今までの作品の中で場所に対する愛は一番強いかも知れないですね、舞台セットとなる場所に対する愛は群抜きですね

---今回の住宅展示場のような、場所に対するこだわりのある作品は過去にありましたか?

フルタ: なかったですね。逆にここまでの場所に対するこだわりがあるモノはなくて、今回の作品で使ってしまったら不安ですね

---種類が違うと思いますが廃墟とかが好きな人とかはよくいるのですが、違うわけですよね

フルタ: 全然違いますね、廃墟には全然興味がないです。なんで、こんなに好きなんだろう、住宅展示場

---過去に住宅展示場を扱った演劇作品でありますかね

フルタ: ないかも知れないです、場所の設定としては。

---それにしても、住宅展示場ですか

フルタ: うさんくさいものが好きというのが、自分の中で大きな要素としてあって、うさんくさいんですよ街も家も。それであってちゃんと成立している。中国にあるディズニーランド的なニセモノなんだけど、なんか営業している。ニセモノに対する嗜好があるんですよね。ちょっと精神科医の方に話してみたいです、どうしてここまで好きなのか、紐解いていきたいですね

---住宅展示場に何も感じたことがないんです、全くもってして。過去に一度住宅展示場に行ったことがあるのですが、こう営業マンがずっとついて来ちゃうのが苦手なんですよね、静かに見させて欲しい

フルタ: 僕は買う前提で話をしますよ、「これは、いいですねー」とか。そんなことを言いながらこっそり二階に上がって、追っ手から逃れて勝手に写真を撮ってる(笑)

---追っ手から逃れてって

フルタ: 住宅展示場の家には一部屋だけ事務所があって、家中にカメラがあってそこから見られてるんですよね

---そんなフルタさんをカメラを通して見てるスタッフさんは何を思うのでしょう。あ、でも写真を撮るというのは当たり前の行為ですよね、住宅を観に来た人からしたら。でも、フルタさんの目的は違うわけですよね

フルタ: ここに誰かがいたらとか、ピカッピカのテレビとか浴槽のシンクとか、そういうのを「うさんくせーなー」と思いながら見ています

---そもそも住宅展示場で家を見てうさんくさいとは思わないです。なんというか、心が穏やかじゃないですよ

フルタ: うさんくさいというか、生活感がないことに対する違和感が好きなんですよね

---うーん、そういう感情が湧かないから全くわからない、、、夜とか住宅展示場とか見てて、なにかが見えたりしたら逆に困りますから。でも、フルタさんは何かを見ようとしていますよね

フルタ: 見ようとしていますね。僕は幽霊とかが住んでいるとかそういうのはわからないですが、人がこっそり住んでいる可能性をちょっと感じています。夜だけ住んでいいと住宅展示場の人が言ったりしてないかなとか。こっそり夜だけ住んでて昼はいないんです。そういう事例があったら夢があるなと。各住宅展示場がそれをやり出したら、そこに街ができるんです。それちょっとワクワクしないですか? 夜だけの街ができて、夜だけの近所付き合いができて、でも朝になるとみんな仕事に行ったりでバラバラになって、また夜になると集まる。夜だけの集落、その設定でも一つ話ができそうです

---世にも奇妙な物語的です、、、でも、ワクワクはしないですよ

フルタ: ホラーというわけではないですが、ワクワクしないですか? なんとかしてこの自分のワクワク感を伝えたい、なにかに言い換えられないかな。あ、これピンとくるかわからないですけど、あるバンドのメンバーと別のバンドのメンバーがあるときにコラボで一緒に演奏する、それを想像するとワクワクしませんか?

---あ、それはワクワクしますね

フルタ: そういうのに近いと思います、住宅展示場も

---、、、

フルタ: 住宅展示場×本来いないはずの住んでいる人、想像と創造なんです、どうですか

---わからない、です。というか、ツーマンライブだとそういうコラボはやったりするから、現実に存在しちゃってます。いや、まあ、なんというか、住宅展示場に対する想いが強すぎるんですよね、フルタさんにとっては

フルタ: 住宅展示場みたいな場所って、他になくないですか。あの雰囲気を醸し出す場所って存在してないですよね

---なんですかね、住宅展示場って外から見放題じゃないですか、見られるために建てているから当然ですが、そのあたりのことを考えると不安になりますよね、実際には住めないなぁと

フルタ: うーーーん、いやぁ、なんと説明したらいいのか

---いや十分だと思います、なんだかハッキリしませんが、なんかヤバいということはこの記事を読んでいる皆さんに伝わると思います。これまでのフルタ丸は設定や演出においてなにか大きな特徴があったと思いますが、今回は場所に対するこだわりですからね。たぶん、ほとんどの人はわからないと思いますが、逆に何が起きるのかわからない感じがセットに宿っていそうです

フルタ: 逆に私としてはわかりやすすぎると思っていたので、そう言ってもらえて良かったです。自分にとっては本当にわかりやすいわけですが、他の皆さんにとってはわかりやすいわけじゃないということがわかったので

---今回のお芝居を観れば、フルタさんの住宅展示場への愛を理解することができますかね

フルタ: 理解して欲しいです、そこは、自分の中で目標の一つですね。これだけわかってもらえないことが多そうであれば、観劇後に住宅展示場の近くを通ったらついつい見てしまう、そういう人が増えてくれればいいです(断言)

---なんですか、このインタビュー

フルタ: 布教活動ですね、ええ

---タイトル的からもコミカル路線の話になるのかなと思っていましたが、なんだか身構えて行かなくてはならない感じが

フルタ: いやいや、コメディですよ(笑)。私の住宅展示場が好きだという事実が、いい意味でしっとりする部分がある、ぬれ煎餅的な感じになるはずです。パリパリしている煎餅だけじゃなくて、ぬれ煎餅的な半生とカリッとのいいところをせめられたら、よい味わいになるのではないでしょうか

---わからないです

フルタ: ぬれ煎餅を目指したいです

---何言ってるんだこの人。ちなみにですが劇団員の皆さんやスタッフの皆さんには、このフルタさんの住宅展示場に対する愛は伝わっていますか?

フルタ: スタッフに企画書とかはもちろん渡しているのですが、愛は話していないですね。メンバーには話しました、若干「ポカーン」としていました。このインタビューと同じテンションで一気に語りましたが、「そうだな、そうだな!」とは全くならなかったです。

---なったら凄いですよ、まあ、いるのかも知れませんけどどこかに

フルタ: 住宅展示場マニアの人と話がしたいです、ホントに

---日本全国にいる住宅展示場マニアのみなさーん! 東京観光のついでに浅草で観劇してくださいーーー! いるのか? 住宅展示場で働かれている方にもご覧頂きたい内容ですかね

フルタ: そうですね、それはあります

---どう思うんですかね、、、でも、伝わるかも知れない、見ていただきたいです。よく考えたら住宅展示場ってどのくらいあるのですかね

フルタ: 相当あると思います、めちゃめちゃあると思います。住宅展示場で働かれている人たちは理解してくれると思い、たいです

---住宅展示場にフライヤーを置きたいですね

フルタ: 置いてくれますね、今回パナホームさんにご協力を頂いていますからね、ありがたいですね。フライヤーの写真もご協力いただいて撮影させてもらいました。がっつり3時間、自分たちしか入れない状況で撮影しました

---この写真は住宅展示場だったのですね

フルタ: そうです、リビングですね。ちょっと物を移動させたりしましたが、基本そのままですね。撮影している3時間、夢のようなキモチでしたね、憧れの場所ですからすごく嬉しかったです

---、、、なんですかね、はじめて自分以外の人が何かを好きというキモチで負けた感があります。確実に自分が好きなモノより、フルタさんの住宅展示場に対する愛の方が上だな、負けた感が凄いです

フルタ: ありがとうございます

---なんだこのやりとり。いやー、面白いです。結局お芝居の話ではなくて、ほとんどが住宅展示場に対する愛の話しですが。ありがとうございました、本番楽しみにしています!

劇団フルタ丸 2018年 本公演『寂しい時だけでいいから』

『寂しい時だけでいいから』

作・演出:フルタジュン
出演:宮内勇輝 / 真帆 / 篠原友紀 / 工藤優太 / 清水洋介 / フルタジュン  +(日替わり出演者)
<公演日時>
2018年5月30日(水)~6月3日(日)
5月30日(水)19:30
5月31日(木)19:30
6月 1日(金)14:00★/19:30
6月 2日(土)13:00/18:00
6月 3日(日)13:00
※受付開始は開演の40分前・開場は開演の30分前
<会場>
浅草九劇(〒111-0032 東京都台東区浅草2-16-2浅草九倶楽部 2階)
03-6802-8459(公演期間のみ)
<交通>
東京メトロ銀座線 浅草駅 1番出口より徒歩10分
都営浅草線 浅草駅 A4番出口より徒歩10分
首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス 浅草駅 A1番出口より徒歩5分
<チケット料金>
前売3,500円/当日3,800円
★平日マチネ割3,000円(前売当日共通)/学生割引2,500円(学生証提示)
※日時指定・税込/全席自由
※未就学児の入場不可
※チケット発売開始:4月1日(日)0:00
<チケット取り扱い>
●カルテットオンライン
https://www.quartet-online.net/ticket/furutamaru2018
●演劇パス
http://engeki.jp/pass/events/detail/397

ニセモノがスキマを埋めてあげる。

理想のマイホームが並ぶ住宅展示場。
人々の賑わいが消えて、
偶像の街に夜が訪れる。
今夜も孤独な警備員は展示場を歩く。
マッチでも擦ったように、
誰もいないはずの家に明かりが灯る。
覗くと絵に描いたような家族の姿があった。
目の前で繰り広げられる
怒涛のホームドラマ。
男は息をのみながら気付いてしまう。
自分がピースとしてハマるポジションが
空いていることに。

About the Author

クロダマサノブ

下北沢情報サイト【しもブロ】のキュレーターです、キュレーターってなんやねんって?下北沢のありとあらゆるモノをキュレーションしています。下北沢の街にたどり着いて25年、常に変化し続けるこの街のことを見続け、下北沢のイマを伝えています

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