2020年6月1日、本多劇場に再び演劇が戻ってきた、本多劇場グループPRESENTS「DISTANCE」初日の幕が上がりました。

2020.6.1 本多劇場

2020年4月7日よりCOVID-19拡大防止のため全ての劇場を自主的に休館していた本多劇場グループ。本多劇場をはじめとして、下北沢にある8つの劇場全てが一時沈黙する状況となりました。5月に入りゴールデンウィークが終わった後も緊急事態宣言は続きましたが、14日になって39県が先行し解除され、首都圏の解除が秒読み段階となった20日に本多劇場グループは6月1日からの営業再開をアナウンスします。依然、COVID-19の影響は避けられないこともあり、有料の無観客生配信とし6月1日から7日まで毎日日替わりでひとり芝居を行うと発表しました。

そして迎えた6月1日初日、私は下北沢の事務所でパソコンのモニターを見つめていました。オープニングムービーが、それぞれの劇場が沈黙していた期間の寂しさを物語ります。そして、本多劇場のステージが映し出されます。「DISTANCE」の企画発起人で脚本・演出家の川尻恵太・御笠ノ忠次の2人がストーリーテラーとなり、演劇についてのやりとりがはじまります。

ここには昔、劇場があったー

荒廃した劇場に、清掃員がいる。
彼らは「演劇」が上演されていた劇場を懐かしみ、今は機能を停止している全国の劇場を掃除して回っている。
この日やってきたのは、下北沢本多劇場。昔はたくさんの演劇が行われていたらしい。
ふと、清掃員が日記を拾い上げる。
そこには、人と人とが距離をとらなければいけなかった時代の
それでも演劇を続けた人々の記録が綴られていた……

この日のトップバッターとなる永島敬三(劇団「柿喰う客」)がステージに現れる。と、同時にすごい勢いで台詞を放ちはじめ、ジェットコースターに乗っているかのごとく、モニターの前にいる自分をどこかに連れて行ってしまう。表現するのが難しい、近い感覚で表現すると息ができない、そう、それはまさに劇場の客席で抱く感覚そのものだ。妄想が暴走する女子高生を、渾身の語りで伝える。物語の可視化、その価値を再認識させられた。

永島敬三 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
永島敬三 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
永島敬三 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子

続いて、ステージに登場したのは井上小百合。乃木坂46の元メンバーとしか知らなかった彼女、序盤からひとりで何役もこなし、その演技に魅了される。次から次へと登場するキャラクター、笑いのエッセンスがふんだんに盛り込まれた大量の台詞、広いステージを駆け回り、体操やらヒップホップなダンス、そして時折見せる穏やかでかわいらしい表情。起伏の激しい物語、愛の物語を見事ひとりで演じきった。

井上小百合 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
井上小百合 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
井上小百合 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子

そして、この日最後となる入江雅人がステージに。え、500人で居酒屋? どういうシチュエーションなのかさっぱりと分からなかったけど、徐々にそれが明らかにされてゆく。その流れがあまりに自然で、ああ、500人が集まってしまうとこんな状況になるのか、リアルに感じる。そして話は現実とリンクしはじめ、今の自分たちの置かれた状況を思い浮かべ、涙があふれる。今しかできない、今すべき物語を目撃し、私の心は大きく揺さぶられた。

入江雅人- 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
入江雅人- 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
入江雅人- 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子

ストーリーテラーの2人は、それぞれの物語をしなやかに結びつけ、そして、演劇という存在を私たちに改めて感じさせてくれる。2人のやりとりの中で印象に残った言葉がある。

「言葉を尽くしても伝わらないのが演劇なんだ。演劇の魅力は、観てもらわないと分からない」

演劇の魅力を知る私たちが常に思っていること、そのものだった。

御笠ノ忠次- 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
川尻恵太- 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子
御笠ノ忠次・川尻恵太 - 2020.6.1 本多劇場 DISTANCE 撮影:和田咲子

モニター越しのカーテンコール、私は思わず拍手をした。拍手をすべきお芝居がこの日、本多劇場で演じられそれをしっかりと感じることができたから。

DISTANCE - 2020.6.1 本多劇場 撮影:和田咲子

6月7日まで、本多劇場のステージでは連日違う役者がステージに立ち続ける。その日その時間しか観ることができない生配信という手段により、再びこの場所に演劇の火が灯った。演劇を愛する人たちにはもちろん、これまで劇場に足を運ぶ機会がなかった人たちにも届いて欲しい。そう、実感できる本多劇場グループPRESENTS「DISTANCE」初日だった。


初日の舞台終了後、本多劇場にて本多劇場グループPRESENTS「DISTANCE」の記者会見が行われました。手指のアルコール消毒と検温が行われ、マスクの上からフェイスガードをつけ久しぶりに本多劇場に入ります。それぞれの記者もソーシャルディスタンスを意識し一定間隔が置かれ席に座り、登壇者も一定間隔を開けステージに登場しました。

まずは、本多劇場グループ代表の本多一夫さんから、

「これから何があるか分からないですが、スタッフ一同頑張っていきたいと思います。皆様方のご支援をよろしくお願いします」

と挨拶の言葉で記者会見ははじまりました。続いて、本多劇場グループ総支配人の本多愼一郎さんから、

「今日やっと初日を迎えることができまして、劇場で演劇を再開するこだけを考え今までやってきました。とてもすばらしい初日を観ることができまして、皆様に感謝しています。今回『DISTANCE』の公演企画に関わってくれた皆様、明日からもまだ公演は続きます。これからもよろしくお願いします、ありがとうございます」

と、この公演に関わった人たちへ感謝の気持ちを伝えます。

本多劇場グループの本多一夫さん(写真右)、総支配人の本多愼一郎さん(写真左)

続いて、今回の発起人でもある脚本・演出家の川尻恵太さんは

「4月から全国の劇場が閉鎖されました、どの演劇人もはじめて遭遇する事態でした。色々な表現方法を模索しましたが、一番にあったのは劇場を開けて劇場でお芝居をしたいということです。そこで働く方、照明をあてる方、音を流してくれる方、演劇に携わる皆さんと一緒に作品が作りたい。今はお客さんを入れてできる状況ではないですが、まずは一つずつできるところから演劇を再開させたい。『DISTANCE』というのは、少しずつ距離を縮め最終的に今まで通りの満員の劇場でお芝居をやりたいという願いを込めてつけたタイトルです。今日の第一歩、たくさんの方にご覧頂き成功したと思います」

と語り、同じく発起人で脚本・演出家の御笠ノ忠次さんからは、

「僕は割と前向きな性格でして、今日をきっかけに演劇の新しいやり方が発見できたのかなと。配信を視聴している人たちの楽しんでいるツイートを見て、今は劇場に来ることができないため苦肉の策で生まれたやり方ですが、劇場に来ることができない人たちも観ることができたりしていて、割と希望を持って今日を迎えられました」

と、今回の企画が持つ可能性に触れました。

川尻恵太さん
御笠ノ忠次さん

そして、初日にひとり芝居を演じた3人のキャストから、それぞれメッセージを頂きました。

永島敬三さん
「正直なところ、やる前もやっているときも客席にお客さんがいないことが寂しいと思いましたが、たくさんの方から『見るね』『頑張ってね』と言ってくださって。配信の向こうでいろいろ想像力を使って見てくださっていることを想って、その瞬間の劇場の空気だとか私はこの席から見ているとか、それにたいして僕も皆さんが笑ってくれている、手に力を入れて観てくださっていることを想像しながらやらせてもらいました。ちょっと夢みたいな時間でした。
本多劇場は演劇をはじめる前に、お客さんとして関わりはじめました。大先輩の皆さんが本多劇場で僕の記憶に残るたくさんの面白い芝居をされていて、演劇をはじめた頃から本多劇場でやりたいと思っていて、この数年劇団としても関わらせていただくことになり、下北沢という街も本多劇場という所も帰ってきたい場所としてこれからもあり続けてもらいたい。
僕の演劇仲間も舞台ができなくてジリジリとした想いを抱いている人がいっぱいいますが、その代わりに劇場の再開という機会によんでいただけたことに感謝します。この経験はずっと忘れないでしょうし、今日を含めてこの2・3ヶ月感じた想いをずっと忘れられないものになると思います」

永島敬三さん

井上小百合さん
「いろいろなことが苦しい状況の中、本多劇場の舞台に立てたことは、自分の人生にとって大きな出来事になるだろうなと。ただただ楽しんでしまって、でもやっているうちに色々な人への感謝が増えてきました。誰かと話をしたり一緒に笑ったりとか、本当に大切な時間だったんだなと、緊急事態宣言を受け自粛期間をひとりで過ごしながら感じました。
今回は川尻さんが数年前に書き下ろされた脚本で、『ひとりで過ごす平和ほど、平和じゃないことってあるでしょうか』という台詞があって、それが今の状況とすごくリンクしてしまって、何度もそこの台詞を読んで涙してしまった。画面の向こう側でひとりで観ている方も多かったと思うので、ひとりでも多くの方にこの気持ちが届いて欲しいと思いながら演じました。真っ暗の客席を見ながら、今までお客さんが観に来てくれていたことは、どれだけありがたいことだったのかすごく実感しました。今、みなさんは色々なことを考えながら生きている状況だと思いますが、それでも誰かと泣いたり笑ったりして生きていたいなと、そう思える貴重な時間でした。
『演劇って必要ないものなんだよ』という台詞の後で私のお芝居ははじまりましたが、もしかしたら必要ないかもしれないですけど、私にとっては誰かと泣いたり笑ったりすることが生きる意味だったり、生きる目的だったりしていたんだなと、演じながら気づきました。だから、これからも生きていきたいと思いました」

井上小百合さん

入江雅人さん
「演劇っていうのはハッキリ言って、日本中の人が観ているわけではない、観たことない人もいるかと思います。ただ、演劇によって人生が変わる瞬間というのがあって、僕自身がそうでして元々コントをやってテレビに出ていましたが、ある日芝居を観て舞台が好きになり演劇にのめり込み、今は舞台ばかりやっています。観てもらえれば分かるんだけどなという想いはありますが、なかなかそこの敷居が高い。このような配信という形で日本中の方が観れる環境なので、これを機会に観てもらいそして面白いと思って劇場に足を運んでくれたら、これもいい機会だったと思えるんじゃないかと。
長年ひとり芝居をやっていて、個人で動けるので配信もやっていましたが、本多劇場さんが旗を揚げてくれるのはとても大きい。本多劇場というのは僕ら世代にとっては本当に特別で、本多劇場が目指すところであり、本多劇場に立てることは嬉しかった。このような形でひとり芝居で立てたことも嬉しかった。
心配なのはスタッフさんのことで、すぐに再開するのは無理でもその人たちと芝居を作りたい。これが何かのスタートになることを願っていますし、明日からもこのひとり芝居を観てもらって、面白いと思っていただけると最高です」

入江雅人さん

熱く7人それぞれの想いが語られた記者会見。当たり前の話ですが普通にお芝居を上演するだけでも大変なことであり想いがあふれて当然ですが、今回はいつもとは違う環境で向き合い上演されましたからね。2ヶ月弱、公演が休止されていた本多劇場ですが、2020年6月1日から再び演劇の火が灯りました。また、ここから新たな伝説が生み出されることでしょう。

本多劇場グループPRESENTS「DISTANCE」は、6月7日まで連日無観客生配信として上演されます。チケットは上演開始20分後まで購入可能、スマホやタブレット、パソコンなどがあれば誰でも観ることができます。演劇ファンはもちろんですが、これまで演劇に触れたことがなかった方にもぜひ観ていただきたい、そんなお芝居です。

本多劇場グループPRESENTS 「DISTANCE」

本多劇場グループPRESENTS
「DISTANCE」

■日程
2020年6月1日(月)〜7日(日)
※各日の出演者と開演時間は公式サイト、添付画像をご確認ください
■公演会場
下北沢本多劇場
※無観客生配信
■企画・脚本・演出
川尻恵太・御笠ノ忠次
■出演者(五十音順)
井上小百合、入江雅人、伊礼彼方、柄本時生、小沢道成、片桐仁、小林顕作、近藤芳正、清水宏、鈴村健一、永島敬三/川尻恵太、御笠ノ忠次
■上演時間
35~45分を予定(1日のみ90分を予定)
※公演日&演目により、多少前後いたします
■配信媒体
Streaming+
■料金
前売当日2,500円(税込)
※6月1日のみ3演目を連続上演、3,500円(税込)
■チケット発売
5月27日(水)12:00〜
https://eplus.jp/hondageki-distance/
■特設サイト
http://distance.mystrikingly.com
■公式Twitter
https://twitter.com/DISTANCE_STAGE
■スタッフ
舞台監督:寅川英司照明:大波多秀起(デイライト) 音響:藤森直樹(サウンドバスターズ)
演出助手:伊達紀行映像:ワタナベカズキ制作:高橋戦車
衣裳:ヨシダミホヘアメイク:武部千里舞台美術&宣伝美術:魚住和伸
協力:ニッポン放送主催:本多劇場グループ/DISTANCE製作委員会

本多劇場グループPRESENTS 「DISTANCE」公演日程

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クロダマサノブ

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