[レビュー]劇団前方公演墳 本公演「東京しもきたサンセット」

2020年10月7日、下北沢の「劇」小劇場にて劇団前方公演墳 本公演「東京しもきたサンセット」が初日を迎えました。元々、6月に上演される予定のお芝居でしたが、COVID-19の影響で延期された公演です。

劇団前方公演墳について、印象的な名前ということもあり劇団自体は知っていましたが、観劇したのは今回が初めて。そういえば「劇」小劇場に来たのは今年の2月、下北沢演劇祭で観劇して以来。入場時には検温、手指消毒さらには靴裏も消毒し、チケットは自ら半券をもぎりスタッフに渡します。客席は定員を大幅に減らし通常より間隔を拡げ、全員マスク着用。心なしか、客席でおしゃべりする人は少なく、静かな「劇」小劇場の幕が開きました。

STORY

永遠に続くと思っていた喜びも悲しみも、
持ちきれないほどの夢も挫折も、
いつか消えてなくなった。
それでも
彼らに残った、たった一つのものとは何か、、、

出会いと別れを繰り返しながら、
下北沢近辺に生まれ育った幼馴染たちの、バカバカしくも切ない30年間の日常を描く。

お芝居がはじまった瞬間から圧倒され、そして物語に引き込まれる。ステージ上で繰り広げられる世界は、時が進むにつれ全体像が見え始め、ハッとした気づきから物語の結末へ進み始める。そして迎えたラストシーン、あの言葉に全てが込められており、思わず涙する。

まさに、最初から最後まで、一瞬も見逃せない。

物語の伏線をことごとく回収し、観る側の頭に思い浮かんだ伏線(ツッコミどころ)まで見事に回収しきってしまう。本当にテンポの良いお芝居で、途中2回の換気タイムを含め2時間半弱の長さを感じさせない。あえて触れておきたいが、この換気タイムの数分間、最初はお芝居の流れを阻害する要因になってしまうのではと思ったが、私にとっては物語を自らの中で構築するための時間として、逆に価値のある仕掛けとなった。

STORYに書かれている「下北沢」というキーワードについて。私のように地方から上京し憧れてこの街にやってきた人間とは違い、この街に生まれ育つ人たちにとっての「下北沢」を垣間見ることにある。そう、「下北沢」という街だって他のどの街とも同じような側面を持っているのだと。

30年という時の流れがあってこそ、語ることができる物語がある。人と人は共に過ごした時間自体が物語だ。そして、その物語はまた別の人と人との物語とつながり、大きなつながりから唯一の物語が生まれる。

もう一点、このお芝居の特筆すべき点として触れておきたいのが、出演する13人のキャラクターそれぞれにしっかりとした設定、いや、物語があり、13人の役者がそれを明確に表現し感じさせてくれることだ。もちろん、メインとなるキャラクターがいてそこを中心として物語は進む。しかし、それぞれの台詞や絡み、さらには衣装も含め、1人1人のキャラクターの物語をしっかりと感じられる。どこを切り取ってもスピンオフドラマが作れるような、そんな濃すぎる人物関係がこのお芝居の醍醐味だと言えるだろう。改めて伝えておきたいが、そう感じられるのは13人の役者のそれぞれの演技あってのことであり、さらには全出演者が創り出すグルーヴがあったからこそ生まれた世界である。

改めて、劇団前方公演墳 本公演「東京しもきたサンセット」は演劇の、そして人と人との関係性の本質に迫ることができる素晴らしい作品であり、多くの人にとって感じることそして得られることがある作品だと言えるだろう。ぜひ、ご観劇頂きたい。


劇団前方公演墳 本公演「東京しもきたサンセット」、公演は10月11日までとなりますが、すでに10日(土)11日(日)は完売、本日8日(木)19時からの回は席が残っているようで18時まで予約可能です。9日(金)についても残りわずかですが席が残っているので、気になる方はお早めにご予約ください。当日券については公式Twitterでご確認ください。

劇団前方公演墳は結成22年目であり、今回の「東京しもきたサンセット」は22周年公演として行われました。元々、6月に行われる予定だった公演はCOVID-19の影響により10月に延期され、そして公演が行われる直前である9月29日に劇団の解散が発表されます。

COVID-19により下北沢に関わる多くの人が影響を受けていますが、劇団はまさにその渦中のど真ん中にあります。このような状況で下される決断は、誰にとってもツラいことであり納得がいかないこともたくさんあると思います。ただ、私が一つだけ言えることは、結果的に解散公演となってしまった「東京しもきたサンセット」は解散公演に相応しい内容に仕上がっており、このお芝居を通して伝えられるメッセージは観た人たちの心に永遠に生きる内容だと言えます。ぜひ、ご覧頂きたい作品です。

とはいえ、なかなか劇場まで行っての観劇は敷居が高い、、、大丈夫です、そんな皆さんのためにも今回の公演は生配信で自宅などでの観劇が可能です。配信が行われるのは劇団旗揚げ日でもある10月10日14時及び18時からの回。千秋楽後に2週間程度アーカイブを見ることもできるので、どうしてもタイミングが合わない方も、ぜひチケットをご購入ください。尚、チケットの販売期間は10日12時頃までとなります、その他詳細は公式サイトをご覧ください。

この劇団のお芝居を観るのが最初で最後になってしまったことはとても残念ですが、解散する前に出会うことができて良かった。たった1回の観劇ですが、13人の役者さんそして劇団前方公演墳のことが愛おしくなってしまいました。本日が公演2日目、最終日の11日までお芝居はどんどん磨かれていくことでしょう、最終日まで走り抜けてください。

[2020.10.11 追記]
千秋楽公演が終わりましたので、撮影可能となっていた初日カーテンコールの際の写真を掲載します。本当に皆様お疲れ様でした。

劇団前方公演墳 本公演
「東京しもきたサンセット」
劇団前方公演墳 本公演
「東京しもきたサンセット」

劇団前方公演墳 本公演
「東京しもきたサンセット」

作・演出 デビッド・宮原 / 音楽 吉田トオル

2020年10月7日(水)~11日(日) 全8ステージ
於 「劇」小劇場@下北沢
前売券:4500円 / 当日券:販売未定
(自由席/各回整理番号順時間差入場/各回40席限定入場)
[SCHEDULE]
2020/10/7(水) 19:00
2020/10/8(木) 19:00
2020/10/9(金) 14:00 / 19:00
2020/10/10(土)14:00 / 18:00
2020/10/11(日)13:00 / 17:00
※受付は整理番号にて15名ずつ開演の30分前より10分ごとの受付となります
※受付時に検温、手指消毒をお願い致します
※開演時間を過ぎて遅れての入場は一切できません
[STORY]
永遠に続くと思っていた喜びも悲しみも、
持ちきれないほどの夢も挫折も、
いつか消えてなくなった。
それでも
彼らに残った、たった一つのものとは何か、、、

出会いと別れを繰り返しながら、
下北沢近辺に生まれ育った幼馴染たちの、バカバカしくも切ない30年間の日常を描く。
[出演]
安藤聖/織田稚成/金子透/河原幸子/佐野みかげ
中野圭/広田あきほ/藤井直子
有賀さやか/坂崎愛/高橋2号/堀川果奈
西内琢馬
[STAFF]
舞台監督:庄山彰浩 照明:河上賢一 音響操作:KORN
舞台美術:平社長 大道具:TEAM-K 制作:管理人3
製作:劇団前方公演墳
公式Webサイト
劇団公式Twitter