シモキタの百年を文学でたどる「月に吠えよ、萩原朔太郎展」「下北沢猫町散歩」

最近とくにドラマやアニメなど映像作品のロケ地として賑わいを見せているシモキタの街。文学の世界でも多くの文豪や作品に影響を与えてきました。シモキタに縁のある文豪のひとりが、世田谷に家を建て、そこで晩年を過ごした萩原朔太郎です。世田谷文学館では朔太郎の没後80年を記念して「月に吠えよ、萩原朔太郎 展」を2月5日(日)まで開催。さらに関連企画として3月31日(金)までは「下北沢猫町散歩」と代し、シモキタにゆかりのある作家や作品に関する展示を行なっています。シモキタの歴史を辿りに、世田谷文学館を訪れてみました!

閑静な住宅街に静かに佇む世田谷文学館

京王線芦花公園駅から徒歩5分。駅の近くにありながら自然に囲まれ、静かでのんびりとした時間が流れる「世田谷文学館」は筆者のお気に入りスポットのひとつです。世田谷文学館区にゆかりのある作家の原稿や初版本、書簡・遺品等を展示するコレクション展に加え、年数回企画展を開催しています。

今回訪れたのは世田谷区代田に建てた家で晩年10年ほどを過ごし、作中にもその街の風景を反映させた萩原朔太郎をめぐる「月に吠えよ、萩原朔太郎展」。さらにコレクション展として同時開催している「下北沢猫町散歩」も堪能してきました。

文学館の入り口から企画展の雰囲気を楽しめます

萩原朔太郎は1931年、45歳のときに下北沢へ移住。翌々年には自ら設計した家を代田に建てました。1942年に亡くなるまで過ごした終の棲家。そこで描かれた作品も多数あり、シモキタを舞台とした短編小説「猫町」は朔太郎の代表作のひとつです。

文学館の入り口にはきれいな満月が描かれ、さっそく世界観に没入させてくれます。筆者が「世田谷文学館」が好きな理由のひとつは、このように建物全体で企画の世界観に入り込めること。大きな美術館などでは同時企画が多々ありますが、こちらはこぢんまりとしていて足を踏み入れる前から訪れた企画の魅力を感じることができるのです。

チケットを購入したら2階の展示室へ
1冊の本を開いたようなユニークな展示
会場イメージ図(会場設計:DO.DO.)世田谷文学館公式サイトより

まず目をひいたのが展示方法。1冊の本をめぐるように入り口から出口まで1枚の大きな紙がじゃばら折になってつながっています。巨大な本の世界に迷い込むようなわくわくする仕掛け。

プロローグ『猫町』より版画家金井田英津子による作品『猫町』
文字が踊っているようなオノマトペの世界

展示の内容は、プロローグを筆頭に続く全4章。1章から4章まで年譜にそって構成されているので、朔太郎の人生を辿っているように感じられます。朔太郎の直筆原稿や手紙のほか、デザイン、写真、音楽に精通していた彼のさまざまな作品を鑑賞することができ、その多彩さに驚かされました。朔太郎がみずから設計して建てた世田谷区の住居平面図も展示。娘の萩原葉子による鉛筆の書き込みもあり、当時の様子を想像させてくれるとても貴重で楽しい空間でした。また、版画家金井田英津子の『猫町』や、漫画家松本大洋による『青猫』など、朔太郎に関係の深い芸術家たちの作品を見ることができます。

さらにおもしろいのが直接触れて楽しめる「地面の底の朔太郎の顔」。ヴァーバル・アート・ユニット「TOLTA」が手がけた朔太郎の言葉を体感できる6つの作品が展示の途中に現れます。

「詩のコンシェルジュ(萩原朔太郎編)」

タブレットに表示される4つの質問に答えることで自分にぴったりな朔太郎の詩が表示されます。たくさんの人が訪れる文学館で自分だけの贈り物をもらえたみたいでほっこりとしました。

「月が出ているから犬が吠える」

つみきの4面に「月に吠える」から着想されたフレーズが記載されており、好きな言葉を組み合わせることができます。なんだか朔太郎ととこば遊びをしているようで、いつまでも並び替えていられそう。「酒を飲めば」「とてもおいしい」は筆者が通りかかった際、偶然一番上に積まれていました。この日のお酒はいつもよりおいしく感じて、なんだか不思議な巡り合わせのようでした笑

残念ながら写真を撮影することはできませんでしたが、実際に手に取ることができる展示がもう一つ。ガラス瓶のなかに入るのは萩原朔太郎の詩をつくっている文字。万華鏡にはその一篇が入っており、覗き込むとさまざまな文字がくるくるとおどります。覗き込む際は童心に返ったようなワクワクとした気持ちに。なかではさまざまな文字が不思議な模様を描いていました。

そのほか、世田谷文学館の名物ともいえるムットー二のからくり人形も朔太郎の詩を原作とした6台が登場。貴重な作品や文献、資料を見て楽しむのはもちろんのこと、手で触れて耳で聴いて、朔太郎の紡ぐ美しい言葉をはじめとした世界に没入できる展示でした。

「下北沢猫町散歩」のチラシ3種類

そして肝心の「下北沢猫町散歩」ですが、なんと全面撮影禁止とのこと。写真とともにお伝えできないのが残念です。なかでは東京近郊の農村から新興住宅地へ、そして演劇・音楽の町、若者の町へと下北沢がめまぐるしい変貌を遂げたこの百年の間に、多くの作家が残した作品にまつわる展示がされていました。萩原朔太郎はもちろん、坂口安吾や宇野千代、そして吉本ばななや又吉直樹まで、シモキタに居を構えていたり、街の魅力を作品にしたりした文豪たちが勢揃い。小説やその原稿、所持品など貴重な品の数々を見ることができました。

印象的だったのが「シモキタマップ」。本展に訪れた方達が付箋にシモキタの思い出を書き込み、用意された地図上に貼っていくものです。いろんな人の思い出がつまったすてきなマップが出来上がっていました。

こちらは3月31日まで展示されているのでぜひ足を運んで、多くの文豪によってさまざまな視点で捉えられたシモキタの歴史を感じてみてください!

さらに1階のロビーではバナーの特別展も。こちらは入場無料で気軽に立ち寄れるのでお散歩がてらふらっと訪れるのにおすすめです。

猫町のバナー。ポップなデザインがかわいい。

このように作品の解説などを書いたフラッグがずらりと壁に飾られています。萩原朔太郎の世界観をカジュアルに楽しめるのでお子さんと一緒に見るのもおすすめ。

バナー展示のおとなりにはこども向け企画として「猫町」の世界をイメージしたダンボール迷路が登場。幼児から小学校中学年くらいまで無料で楽しめるとのことで、この日も子どもと一緒に遊ぶ家族の姿が見られました。こちらも2月5日(日)まで。

目で見て手で触れて耳で聞いて、先人が残した美しい言葉たちを新しい形で感じることができました。ロケ地巡りならぬ文豪遺跡めぐりに繰り出して見たいと思います!

『世田谷文学館』

「月に吠えよ、萩原朔太郎展」〜2023年2月5日(日)
「下北沢猫町散歩」〜3月31日(金)
南烏山1-10-10
10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の時はその翌日)
年末年始(12月29日~1月3日)
※ただし展示替の期間中は、企画展とコレクション展の両方を休止する場合があります
※館内整備のため休館をする場合があります。
公式サイト