何故だろう。
いつも通っている道なのに、ある日突然新しくお店がオープンしていたりすると、以前はそこに何があったのかが思い出せないことがある。
あれ?あれ?何だったっけ? おかしいな、一昨日も通ったばかりなのに。その前の日だって…。もしかして、工事中だった? う~ん。思い出せない。
そんなことが時々ある。
あなたも身に覚えがあるでしょう?
いえいえ、ないとは言わせませんよ。

そんなことはさておくとして。
下北沢には、次々と新しいお店がお目見えしている。シモブロで紹介しても紹介しても追い付かないくらいだ。
というのは、大袈裟だけど。
来る者があれば去る者もある。静かに幕を引いていったお店もまたあったのだった。
街は生き物。 入ってくるものがあると、それを消化して、吸収して、ちょろっと排出したりなんかして、変化を重ねていく。

その一方で、変わらぬものもある。

『カフェ・トロワシャンブル』は、南口商店街を突き抜けた先、ビルの二階にある老舗の喫茶店だ。下北沢で34年の歴史をもつ。
店内は、深紅のベッチン張りの木の椅子に、漆喰の壁、いつ行っても落ち着いた穏やかなトーンに満ちている。
むうう。 その“大人”な雰囲気に、一瞬ひるんでしまう。
普段、ゆるいカフェにしか行っていないもんなぁ。スタバにしておけばよかったか。
カウンター内には、寡黙な店主。
こちらのオドオド度は高まる。見破られないようにしなきゃ。
でも、大丈夫。そんなドギマギは初めて行ったときだけのことだった。
実は、物腰柔らかで、そりゃもう、気配りの行き届いた店主なのだ。

「お待たせいたしました」
品のよいマダム(店主の奥様)が、サンドイッチの皿をテーブルに置きながら優しい眼差しをこちらに向けてくれる。その目と目が合ったとき、ぱっと心地よい世界に飛んでしまう。
うわぁ、もうこのサンドイッチは絶対に美味しい!食べなくても美味しい!
そんな気分になる。

でも、食べる。

サンドイッチは、たまごサンドとハム・レタスサンドの盛り合わせだ。
片面だけこんがりとトーストしてあるたまごサンドは、優しい味付けのフィリングがたっぷりと入っている。
一方、ハム・レタスサンドは、マスタードが程よく効いている。これより少なくてはだめ、多くてもだめ、という、ドンピシャのところを押さえているのだ。
どちらも、シンプルながら充実感を与えてくれる美味しさである。

他にも、グラタントースト風の「オリジナルサンド」もお勧めだよ。

34年も店を続けていくのは、並大抵のことではない。
この店は、多くの常連客に愛され、育まれながら、今日まできた。

変わっていくものと変わらぬもの。
下北沢は、その両方を内在して、下北沢になっている。

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【トロワ・シャンブル】
代沢5-36-14
03-3419-6943
09:30-23:00
不定休