2015年5月27日から31日まで下北沢小劇場「B1」にて、劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』が上演される。
フルタ丸に関連するTwitterやブログをチェックしている限り、今回の公演はこれまでの公演とは決定的に何かが違うと感じた。客演なしフルタ丸の6人のメンバーだけで行う本公演は私も観たことがない。どのような思いでこの公演に挑むのか、劇団主宰のフルタジュンさんに話を伺った。
-まず、今回の公演に合わせて更新されているリレーブログについて聞かせてください。これは本公演に向けての試みとのことですが、1月にはじまって毎日更新されており既に100件を越えています。この試みはどのような狙いがあるのででしょうか。
フルタジュン(以下、フルタ): 稽古期間がはじまりリレーブログを出演者で回すと言うことは、多くの劇団がやっています。一方、6人で本公演をやると決めたのがかなり前だったので、5月に向けて劇団員だけで、キリがいいこともあり2015年になった1月5日からはじめました。5ヶ月間ブログを続けることに挑戦してみようと、初めてのチャレンジでした。
普段からブログを書いているメンバーは半分くらいで、残りの半分がそもそもブログを書き続けることができるのかという心配がありましたが、今の時点でも続いていますね(取材は5/12、この記事を執筆している5/20現在も続いています)。
-もう、ここまで来ると絶対にやめられないですよね
フルタ: もしブログが止まるような事態になったら、最悪、誰かが代筆すると思います、、、いや、もちろん現時点でそのような事態にはならず、リレーブログは続いています。
-まだ、2月頃までしかリレーブログを読めていないのですが、ブログの執筆で苦労されている方はいらっしゃいますか
フルタ: 篠原は時間がかかっているみたいですね、文章が長すぎるんですよ。なんというか、内容的にも自分自身を切って出しているような感じですよね。
-それは私も感じました、篠原さんの書いている内容は心の底から言葉、いや想いを出しているような感覚を覚えます。それにしても篠原さんのブログの内容は深いですね
フルタ: 篠原は決してメンヘラというわけではないのですが、それとはまた違う複雑なモノを抱えていますね。
-あくまで私の想像なのですが、篠原さんは私たちが見えていないモノがいろいろ見えているのではないか、そんなことを考えてしまいます
フルタ: そういえば、昨日も彼女のTwitterがアラビア人のアカウントにフォローされて、「これはIS(*1)だ、私を監視している。いつ何か起きるかわからないから、、、とりあえず劇団員のみんなには伝えておく」って言ってました。本気で怖がっていますよ。
*1: イラク・シリア間にまたがって活動するイスラム過激派組織
-(たぶん違うと思いますが)そ、そんな篠原さんだから、あの演技ができるのでしょうね
フルタ: そういえば、ファンの方でフルタ丸がブログを5月まで続けるんだったら、私もコメントを続けるといって、ずっとブログにコメントを続けてくれています。
-まさに、ファンをも巻き込んでのリレーブログですね。継続することには、本当に意味がありますね
フルタ: リレーブログの終わり、公演が終了したら終わりですから、カウントダウンからはじまっているという点でも最後まで続けることに意味がありますね
-次にメンバー6人だけの公演だという点について。劇団フルタ丸は本公演では色とりどりな客演の方が出演されるイメージが強いのですが、今回の本公演を劇団メンバーだけで挑む意味や意義について教えてください
フルタ: これまでも劇団員だけの本公演をやりたいと考えていましたが、現実的なことを考えるとなかなか実現することができませんでした。いままでは自分たちの劇団と他の劇団をどこかで比べ競争していましたが、もう他の劇団のことは関係ない自分たちで面白いモノを作ろう、そう考えをシフトしたときに劇団員だけでお芝居を作ろうと決めることができました。もう、よその劇団のことは気にならなくなりましたね。
もう一つ、客演さんと一緒にお芝居を作ると新しい風を与えてもらえますが、その分、劇団員の目立たせ方や役の中での盛り上げ方などでも悩んでいました。本人たちも、(客演の方より)自分の方ができるのに、、、という葛藤もあったようです。その話しを本人たちから聞いて、だったら言い訳するなよ6人だけで作ろう、となりました。
-6人だけでやるというのはフルタさんが1人で決めたわけではなく、劇団員の皆さんの総意だったのですね。これはいつ頃のお話しですか?
フルタ: 2014年12月の頭ですね、前回の公演の1ヶ月後にみんなで話し合い、劇団員だけでやる結論を出しました。
-役者が6人だけになると、1人当たりの演技の量も増えますよね
フルタ: もちろん、その分増えることになりますね、いつもより全員負担が増えます。
-そして、今回はフルタさんも出演されますね
フルタ: 正直、役者はもういいと思ったはずですが、メンバーだけでやるのなら出たいと思いました。少ない人数で大きなものを創り出すと言うことに対する憧れもあり、6人でどれだけお客さんを圧倒するモノができるか、それに挑戦してみよう。だめならフルタ丸玉砕、そのくらいのイメージですね。
-なにかを賭けてる、その雰囲気はフルタさんそしてメンバーの皆さんからひしひしと伝わってきます
フルタ: 自分も含め年齢的に30代中盤にさしかかってきていることもあり、何度かある人生の分岐点のうちの1つに来ているとみんな感じています。今まで通り客演さんを呼んだスタイルでやってもフルタ丸としては平行線、何か大きな変化を求めるのは難しい。だったら、メンバーだけでどこまでやれるか、そのことに挑んでみたいと思いました。
-人数が少ないからと言って、物語の大きさが変わるわけじゃないですよね。人数が減ったら、その分をそれぞれが補うことになる、、、。それでいつもより圧倒的に稽古スタートが早かったのですね
フルタ: そうですね。あと、今まではお互いに言い合わなかったことも言い合えるような時間を作りました。メンバー同士がこれまではナイーブで踏み込まなかった部分にも敢えて踏み込んで、稽古場で話し合う。そんなことを繰り返してきました。
-チャレンジング公演の時も色々なことに文字通りチャレンジしていると思いましたが、今回はまさに命を賭けている、魂の注ぎ込み方が違うと感じました。もう、これでフルタ丸は解散してしまうのではないか、そんな覚悟を感じています
フルタ: 解散をしたいというわけではありませんが、「退路を断つ」その意識をみんなが持っている、そんな状況ですね。
-この作品を作ろうとしたきっかけについて教えてください
フルタ: 岐阜の実家には64歳の父親がいて、自分自身には4歳になる娘がいます。あるとき、日々の生活の中で自分のイヤなところが、自分の娘にも出ていることに気づきました。そして自分が自分の親を見ていて、親のイヤなところ、それはやりたくないと思っていたことをやってしまっていることにも気づいたのです。似たくないところが似てしまっている、抗うことのできない血のつながりを感じました。
そして、自分が奥さんにプロポーズしたことはもちろん覚えていますが、もしかしたら父親のプロポーズも想像できるのではないか。親のことは全く知らない他人のことではない、もしかしたら自分のプロポーズと似ていたのではないか。さらに、自分の娘がプロポーズを受ける瞬間をイメージできるのではないか、それが親子の血のつながりなのではないかと。そんなことを考えている最中に、この作品の入り口ができました。
-お芝居のタイトルは『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』ですが、お話を伺う限り親子のつながりがきっかけとなったお芝居です。もう、この時点でノスタルジックで泣けてきそうですが、そこは劇団フルタ丸、やはり喜劇ですよね?
フルタ: もちろん、喜劇です。
-切なくなりつつも、思いっきり笑うことができる、そんな作品になりそうですね
-最後に今回のお芝居は、どんな方に観に来てもらいたいですか?
フルタ: 親が嫌いな人、自分の親のことが嫌いな人に観てもらいたい。両親大好きって人よりも、親とうまくいっていない人に来て欲しいですね。
-ありがとうございました
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フルタさんに今回の公演の話を聞いたが、お芝居の物語自体については全く聞かなかった。聞かなくたって絶対に素晴らしい作品になることはこれまでの経験上間違いない。これまでのレビュー記事でも物語については書いていないし、他のお客さんと同じく公開されている情報からイメージし、そして客席で衝撃を受け続けてきた。今回も取材者でありつつも一観客でいたい、そして衝撃を受けたいんだ、劇団フルタ丸のお芝居で。
取材前に考えていたこと、今回の公演にかける思いは今までとは明らかに違う、そのことはフルタさんの言葉を聞き確信に変わった。劇団フルタ丸はこのお芝居で何かの区切りをつけようとしている。インタビュー中に恐る恐る「解散」という言葉を口にしたが、そんなことよりももっともっと意味がある区切りになる公演、それが【劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』】だと確信した。
お芝居の特設サイトに掲げられている写真、メンバー6人でこのお芝居に挑む覚悟がひしひしと伝わってくる。この6人で、この6人だけで、このお芝居は創り上げられる。
フルタさんにインタビューした翌日に稽古場に伺った。公演まであと2週間というタイミング、1時間ほど稽古を拝見しすぐに気づいたことがあった。それは、6人という人数の少なさ、この稽古場は以前にも取材で訪問したことがあったのだがとても広く感じる。6人でお芝居をすること、それがどういうことなのかを感じることができた。
さらに、いつもと様子が違う。2週間前のタイミングなら、もう少し稽古が進んでいてもおかしくないのだが、、、聞けば4月末に台本を完全に書き直していたのだ(参照: 2015-04-27 ガソリンを注ぐ[劇団フルタ丸 フルタジュンの班長日誌 2015ねん])。稽古がはじまったのは3月中旬(参照: 2015-03-16 稽古初日を祝う夜[劇団フルタ丸 フルタジュンの班長日誌 2015ねん])、1ヶ月半はなんだったのだろう、もちろん意味があることはわかっているけど費やした日々に見合うものなのだろうか。しかし、答えはリレーブログに書かれていた、宮内さんのブログの言葉を引用させていただく。
以前のブログで「今は山でいうところの2合目」と書きました。
再始動した今、あれはトレーニング用の山だったと気付かされましたね。
エベレスト登る前に富士山登っとく?みたいな。
今日の本読みをした時、あ!あの経験が活かされてると実感できましたよ。
【2015.04.27 Monday リレーブログ「稽古6週目」 宮内勇輝】
杞憂だ、自分の心配は。公演を1週間前に控えた劇団フルタ丸はフルスロットルなのだろう。そして、来週迎える初日、完全な状態で僕たちは6人のお芝居を目にすることになる。
取材が終わり、この記事を書くまでの間に137件のリレーブログ全てを読んだ。月曜日は宮内さん、火曜日は真帆さん、水曜日は清水さん、木曜日は工藤さん、金曜日は篠原さん、土曜日はフルタさん、そして日曜日は照明デザイナー兼広報のsatokoさん。なんという、素晴らしい順番なんだろう、この順番は最高なんだ劇団フルタ丸を知る上で最高なんだ。ああ、なぜこのブログをリアルタイムに読まなかったのだろう、本当に後悔したがもう時は戻ってこない。公演までにあと2回は全リレーブログに目を通したい。
そして、今回のリレーブログではじめてsatokoさんのことをちゃんと知ることになる。公報Twitterを担当されているので、存在はもちろん知っていた。でも、劇団フルタ丸をずっと見続け、劇団フルタ丸のお芝居に照明を当て続けていた彼女がリレーブログを担当したことは大きい。毎回劇団フルタ丸の照明は美しいと感じていたが、今回は尚更その思いが強くなるだろう。
あと、これを書こうかどうか最後の最後まで迷ったが敢えて書こう、今回は篠原友紀さんに注目したい。もちろん、メンバー全員に注目することは間違いない。でも、その中でも敢えて1人注目するとしたら篠原さんだ。フルタさんのインタビューの中でも篠原さんのリレーブログが深いと話していたが、全てのリレーブログを読んだ今、ハッキリと篠原さんに注目したいと書ける。心、いや、体の奥底から思いを綴ってくれた彼女がこの公演で何を見せてくれるか、本当に注目したい。
劇団フルタ丸の歴史に残るのはもちろん、下北沢演劇界の歴史に残るであろう【劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』】。5月27日から31日まで、私は可能な限りこのお芝居を観たい。もう説明は不要だ、あなたも一緒に劇団フルタ丸が創り出す歴史の証人になろう。
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【劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』】
[公演日程]
2015年5月27日(水) – 5月31日(日)
[会場]
下北沢小劇場「B1」 (北沢2-8-18 北沢タウンホール地下1階)
[開演日時]
5/27(水) 19:30
5/28(木) 19:30
5/29(金) 14:00
5/30(土) 14:00、18:00
5/31(日) 14:00、18:00
(受付開始は開演の45分前・開場は開演の30分前)
[料金]
前売:3,500円
当日:3,800円
学生割引:2,500円 (学生証提示)
※前売り日時指定・全席自由
[作・演出]
フルタジュン
[出演]
宮内勇輝
真帆
篠原友紀
工藤優太
清水洋介
フルタジュン
[スタッフ]
<照明・広報> satoko
<音響> 前田真宏
<音響プラン> 水野裕
<音楽> 平野智子
<舞台美術> 泉真
<写真> 木村健太郎
<撮影> 株式会社アンダンテ
<演出助手> 寺山義教/佐藤すみ花
<宣伝美術> 山下隼太郎
<制作> 丸山立/三村大作
<企画・製作> 劇団フルタ丸
[特設Webサイト]
http://dp02026338.lolipop.jp/24tokusetsu/24tokusetsu.html