[千秋楽] 劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』

 

2015年5月31日下北沢小劇場B1、劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』の千秋楽公演が行われました。受け付け開始5分前に会場に到着した私の目に飛び込んできたのは、受付待ちの行列、、、入場待ちではなく受け付け待ちの列です。千秋楽公演を観劇するお客さんも並々ならない決意で挑んでいる、絶対に凄いお芝居をみることができる。そんなことを考えながら自分も受け付け開始待ちの列に並びました。

下北沢小劇場B1は区の様々な施設がはいる北沢タウンホールの地下1階にあります
下北沢小劇場B1は区の様々な施設がはいる北沢タウンホールの地下1階にあります

受付を済ませ、次に開場の列に並びます。10番台後半、最前列の中央側は無理だけど、最前列なら座れるかな。そんなことを考えつつ、これまでに観た前半3回の公演のことを振り返る、そして、自分が見ていない土曜日の昼夜と日曜日昼の3回の公演でお芝居がどう変わったかイメージする。どんな千秋楽公演を見ることができるのだろうか。

開場し、会場入って右側の最前列左から3つ目の席に座る。ああ、この舞台を観るのも今日で最後か。よくよく考えると、不思議なセットだったなぁ。個人的に気になっていたのは、フルタさんと工藤さんが座っている椅子には、ドリンクを置くちょっとしたテーブルが引き出されるところ。この椅子、欲しい、、、座面が開いて収納性も抜群だし。千秋楽公演の緊張感とはかけ離れた、そんなたわいのない事を考えていると音量がすこし上がり、あの曲がかかる。次にこれまで流れていた70年代とは明らかに違うお芝居の音楽が流れ、客電が落ちる。さあ、はじまる、最後のボクチチが、、、。

ブライダルサロンでドレスの試着に付き合う4人の男。自分もずいぶん前に体験したので、あそこで手持ち無沙汰になっている男性の気持ちはよくわかる。早くもそのシーンで「父親のプロポーズの言葉」というキーワードが出て、4人それぞれの父親の話しがはじまる。

中元和信(工藤さん)の父親である和夫(工藤さん)と和子(篠原さん)のエピソードは、ある夏の焼きそば屋台で出会い恋に落ちた2人を描いたお話し『焼きそばの恋』。
菊池大輔(宮内さん)の父親である茂(宮内さん)と幸子(真帆さん)のエピソードは、都電の車掌とその都電に乗りエレベーターガールを務める職場のデパートに通う2人の相思相愛を描いたお話し『都電の恋』。
田口直樹(フルタさん)の父親である清(フルタさん)と美智子(篠原さん)のエピソードは、お見合いではじまる恋のお話し『お見合いの恋』。
舟木哲也(清水さん)の父親である作彦(清水さん)と順子(真帆さん)のエピソードは、小学校教員で同僚として出会いお互いが惹かれあうお話し『教員の恋』。

現在の4人と、それぞれの父親とまだ結婚する前の母親、5つの物語が連続的に展開しお芝居は進んでいきます。ちなみに、現在の4人の物語にはブライダルスタッフとして真帆さんと篠原さんが、それぞれの両親のエピソードには宮内さん・工藤さん・清水さん・フルタさんが2人を盛り上げる役として出演しており、6人のメンバー全員が1人3役を演じます。

それぞれの物語が進み、それぞれの結婚前の両親の関係が近づきはじめます。そして、お芝居の中盤から物語は一気に進展。そして、それぞれのプロポーズの言葉が父親から母親に伝えられ、最後に清水さんが演じる哲也がブライダルサロンから飛び出し父親の元に向かうシーンでお芝居は終わります。

 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』

ここからは自分なりの 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』の解釈のため、フルタさんの想定とは異なる場合もありますが予めご了承ください。

私はこのお芝居を4回観させていただきましたが、昨年まで上演されたチャレンジング興行の要素がふんだん盛り込まれており、あのチャレンジング興行があったからこそできたお芝居だと感じました。そして、劇団フルタ丸のメンバー6人のみの公演であり、物語の設定及び配役が限界まで突き詰められた作品であったと言えます。それぞれが3つの役をこなす関係で、とにかく何度も何度も衣装を着替える必要があったと思いますが、たぶんこれ以上は不可能という所まで来ていたと思います。

そして、不可能を越えた瞬間を物語の中に入れ、フルタ丸のフルタ丸たる所以を感じさせてくれました。篠原さんは舞台で『お見合いの恋』の美智子演じながらから、『焼きそばの恋』の和子へと役を換わります。正直、あれは篠原さんだからこそできたのだと。そう、篠原スペシャルのレビューでも書いているとおり、金曜日の公演は篠原さんばかりを見ていて思いましたが、上手側を見て絡み合う清と追う男(宮内さん)を見送り、和夫に声をかけられ下手側に振り返った瞬間、衣装は全く同じなのに表情や存在感が完全に和子になっているのです。あのシーンを見て私はその展開に笑うというよりも、ある種の戦慄を覚えました。やはり、篠原友紀という役者は凄い。

さらにもう一つ、不可能を越えたシーンがあります。『都電の恋』で清水さん演じる通行人というか爆弾を持った立てこもり犯と宮内さん演じる茂が回転しながら下手に消えると、間を置かずに先ほど上手に消えたフルタさん演じる清と宮内さん演じる追う男=美智子の元夫が絡みながら舞台に出てきます。そう、宮内さんは茂の車掌の衣装のまま、それまではチャラい雰囲気の衣装しか身につけていなかった追う男として登場します。その際に「美智子の元夫」的なことが書かれた紙を首からぶら下げステージに戻り、ステージに倒れ込みセリフを話しているのにもかかわらず、その紙を盛大にアピールする、、、さすがにこれには笑いをこらえることができませんでした。
なんだこれは、なんなんだこれは! フルタさん曰く、「このシーンを作るために、わざわざ4つの物語の順番を入れ替えました。フルタ丸としての性(さが)が出てしまいましたね」とのこと。物語の流れを壊さずに(?)このようなシーンを入れてくる、それが劇団フルタ丸なんだと感じさせる瞬間でした。あれはずるい、宮内さんのアピールがずるい! おいしすぎるよ宮内さん! サイコーだよ、フルタ丸!

『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』ブック

お芝居中盤、物語が一気に走り始めるシーンに時を戻します。初日レビューでも書いていますが、ステージに立つ真帆さんの佇まいに思わず涙があふれ出たシーンです。あのシーンは、ステージ上側にウェディングサロンにいる大輔(宮内さん)・和信(工藤さん)・直樹(フルタさん)が父親のプロポーズを想像する話しで盛りあがっています。そして、すっと『都電の恋』の幸子(真帆さん)がステージ下側に登場します。初日はまだぼんやりとしか理解していませんでしたが、4つの物語がブライダルサロンにいる4人の息子たちによる想像によるものだとハッキリわかるシーンでもあります。

2回目の観劇なら、以降の流れがわかっているので胸が締め付けられるシーンだということはわかるし、涙がこらえきれなくなるのは十分ある話しだと思います。でも、私は初めて見た初日のこのシーンで涙が止まらなくなりました。真帆さんのそこに立つ姿と表情、確かにそれだけでもここが物語の転換点だと感じることはできました。でも、なぜそこで泣けるのか、千秋楽の公演を見てわかったことはステージ上側にいる3人の真帆さん演じる幸子に向ける表情や目線、そしてその絶妙な距離感がこのシーンの緊張感をお芝居の中で最大限に高めていたからです。これまでに感じたことのない所までフルタ丸が到達している、そう受け止めざるを得ないでしょう。

それにしてもあのシーンは忘れられない、そして、今でも泣けます。そういえば3日目に、もうお芝居を見なくても泣けますよ、と真帆さんに伝えたら「いや、見てください、ちゃんと」と言われたことを思い出しました、、、見ましたよ、ちゃんと見ましたよ、やっぱり泣いてたけど。

千秋楽公演後の下北沢小劇場B1

かなり取り留めなくなってきましたが、まだ続きます。

事前インタビューでも「役者はもういいと思ったはずですが、メンバーだけでやるのなら出たいと思いました」と聞いていたフルタさんについて。実は初日に観た時、なんだかいつものフルタさんと違うと感じていました。いつもの独特な、ステージに登場するだけで笑えるオーラ的なものを感じなかったのです。でも、3日目に観た時、フルタさんがこんなツイートをしたあの日は最初のシーンから何かを放っていて、千秋楽に観た時は全開でした、、、。もうね、動くだけで笑える、動作の一つ一つが笑える。千秋楽の篠原さん演じる美智子に対する掛け合いで、思わず篠原さんが素に戻るくらい(肩が震えていた)ですからね。だからこそ、フルタさんの演じた清のプロポーズは響いた、フルタジュンという役者のフルパワーを感じました。フルタさんの「ゾクゾクしてる」というセリフは、もう、二度と舞台上では聞けないのだろうなぁ。

さてと、工藤さんについても書かないと。実は今回もっとも感想がパッと思い浮かばなかったのが工藤さんなのですが、なぜかというと和夫(父)と問題児の父(『教員の恋』内)の2つの役がインパクトがありすぎるんですよね。というか、メインの『焼きそばの恋』の和夫よりも問題児の父の方が衝撃が強いと感じるくらい、どちらも勢いのある演技でした。相手の両親の前でそんなポエム読んだらいかんて、繰り返したらいかんて。あ、読ませたのはフルタさんか、、、。
そんな工藤さんですが、和信(息子)が牛乳にコーヒーを入れる場面が心に残っています。あれがあったから、その後の真帆さんを3人が俯瞰するシーンにつながるわけです。物語が走りはじめる本当のきっかけは、あの瞬間だったわけです。そして、工藤さんはフルタさんの本を忠実に演じた、至って自然に演じた、だからこそあのシーンが心に残っているのだと思います。

そして、最後に清水さんについて書きたいと思います。今回のお芝居に敢えて主役という役割を割り当てるとすれば、それは清水さんでしょう。
物語の最終盤、『教員の恋』で父親の作彦が息子の哲也に問いかけ、そして哲也は作彦のプロポーズの言葉を創り出します。作彦に対して好印象を抱いていない哲也は、その過程で父への真の思いに気づくことになります。そしてラストシーン、本当に短いシーンですが哲也は急変した父のいる病院に走りだし、お芝居は終わります。その一瞬ライトが当たった時の哲也の表情が、あのシーンの全てであり、フルタさんが取材で語っていた「親が嫌いな人、自分の親のことが嫌いな人に観てもらいたい。両親大好きって人よりも、親とうまくいっていない人に来て欲しいですね。」という想いに繋がっていましたね。
先ほど衣装についての限界について話題にしたので、このラストシーンの衣装についても触れておくべきでしょう。ラストシーン、清水さんは作彦の衣装のまま哲也を演じます。でも、これは衣装についての限界ではなく、あえてそうしたものだと思います。あのラストシーンの瞬間、哲也は自らが想像した父になりきっている、だからこそあの衣装のままでいいのだと。フルタさんがそこまでイメージしていたのかわかりませんが私はそう感じ、だからこそあの場から飛び出して行くことにつながるのだと思います。とても短いシーンではありましたが、心に残り、そして観劇が終わった後もジワジワくるシーンでした。

4つの物語は息子がイメージした父親のプロポーズまでのストーリーであり、息子と父親がそれぞれ対峙するセリフは、息子自身が父親のプロポーズをイメージし尽くした先にある最後の葛藤なのでしょう。しかし単なる息子の想像だけではなく、これまでに両親から聞いていた話から、大枠が創り出された物語なんだと思います。
『都電の恋』ではプロポーズの前後で爆弾が爆発してしまうわけですが、それは茂のプロポーズの言葉とともに大輔がイメージしたもの。そのことも含めて、現実とファンタジーのギリギリなラインを描きお芝居として創り上げるフルタジュンという作・演出家と、それを演じる5人のフルタ丸の役者が凄いかを実感しました。

劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』、この作品は劇団フルタ丸の歴史にとって大きな転換点で間違いありません。本公演はしばらく予定されていませんし、劇団フルタ丸がこの公演を経て、どの方向に向かうのか私にはわかりません。でも、ひとつだけ言えることがあります。これまでにないレベルで結束したメンバーが、それぞれの活動に身を投じ再び集まるその時、劇団フルタ丸は私たちが見たことのない劇団フルタ丸になり、再び私たちの前に現れるでしょう。

さて、ラストです。千秋楽終了後の6人のコメントをお送りし、千秋楽レビューを終えさせて頂きます。

劇団フルタ丸

フルタジュンさん
『無事に7ステージ劇団員6人で駆け抜けることができて、安堵しています。やはり、劇団員だけでやってよかったなと、終わったいま実感しています。それは僕以外の5人も同じ気持ちなんだろうなと聞かなくてもなんとなくわかっている、それが今回のひとつの結論なんだろうと思っています。そして、この手応えを次にどう活かすか、それが問われているので頑張ります。』

篠原友紀さん
『終わったらもっと悲しくなるのかなと思っていましたが、終わったらまた次にやりたいことが出てきて、カーテンコールでは事前に泣いちゃダメだよと言われていましたが、涙が出てこなかった。それは、全力でやり尽くして、もっとやりたいことがまた“ばっ”と出てきたので、早く次がやりたいという気分です。』

真帆さん
『連日ダブルコールが続いていたのですが、千秋楽はまさかのトリプルコールを頂きました。カーテンコールでは泣くなと言われていたのですが、トリプルもらった時には感無量になって危うく泣きそうになりました。観て頂いたお客さんの皆さんの顔が温かくて、うれしかったしホッとしています。フルタ丸のこの作品が皆さんに届いたんだな、という気持ちで一杯です。ありがとうございました。』

工藤優太さん
『公演を終えて、ただただ、ホッとしています。今回の公演でメンバーだけということだったので、いつもより結束できました。リレーブログをやってきて、ファンの方にコメントを毎回もらったりして、ファンの皆さんと一緒にここまで来れたという実感があります。本当にいい公演だったなと思っています。』

清水洋介さん
『まずは、観に来て頂いた皆様、そして関係者の皆様、本当にありがとうございました。6人でやりきりました。劇団員のみ純度100%のフルタ丸というテーマでやってきましたが、劇団力というものを見せたかったのです。劇団のあり方、劇団員としての生き様がテーマにあったので、劇団としてのチカラを見せることができたのではないかと思っています。今後ともフルタ丸をよろしくお願いします。』

宮内勇輝さん
『正直、まだ終わったという感覚はありません。終わった実感がなくて、次に早く行きたいなと。劇団としていい流れがあったので、このまま明日も明後日もみんなで集まって活動をしたいという気持ちが強いですね。これから打ち上げに行ったら作品のことや、色々な感情がわいてくると思いますが、現状は終了したという達成感には浸っていない感じですね。』

劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』 フライヤー
劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』 フライヤー

【劇団フルタ丸 第24回公演 『僕は父のプロポーズの言葉を知らない』】
[公演日程]
2015年5月27日(水) – 5月31日(日)
[会場]
下北沢小劇場「B1」 (北沢2-8-18 北沢タウンホール地下1階)
[開演日時]
5/27(水) 19:30
5/28(木) 19:30
5/29(金) 14:00
5/30(土) 14:00、18:00
5/31(日) 14:00、18:00
(受付開始は開演の45分前・開場は開演の30分前)
[料金]
前売:3,500円
当日:3,800円
学生割引:2,500円 (学生証提示)
※前売り日時指定・全席自由
[作・演出]
フルタジュン
[出演]
宮内勇輝
真帆
篠原友紀
工藤優太
清水洋介
フルタジュン
[スタッフ]
<照明・広報> satoko
<音響> 前田真宏
<音響プラン> 水野裕
<音楽> 平野智子
<舞台美術> 泉真
<写真> 木村健太郎
<撮影> 株式会社アンダンテ
<演出助手> 寺山義教/佐藤すみ花
<宣伝美術> 山下隼太郎
<制作> 丸山立/三村大作
<企画・製作> 劇団フルタ丸
[特設Webサイト]
http://dp02026338.lolipop.jp/24tokusetsu/24tokusetsu.html