下北沢のトリウッドにて10月24日(金)まで上映されている、日本初のシンセサイザードキュメンタリー映画「ナニワのシンセ界」。電子楽器をこよなく愛する男・西郷 タケル氏に、映画レビューを寄稿いただきました。

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『ナニワのシンセ界』

ナニワの新世界ならぬ「シンセ界」なる映画を拝見して来ました。シンセサイザーというと今やソフトウエア化され携帯電話、駅の発車アラーム、等々あらゆる機器にその機能を有するプログラムが存在していますが、元々は20世紀後半に登場したハードウエアとしての音を合成(シンセサイズ)する楽器です。登場時は効果音だったり飛び道具的な使われ方が多かった様に見受けられますが、その後才能ある数々のミュージシャンにによってか数々の珠玉の名曲、名演奏が生み出されています。自分自身もシンセサイザーにかなりハマってしまっていますが、その記憶原点はトミタサウンドクラウドだったり、映画音楽だったり…未来、科学、魔法、宇宙…という様なイメージを作れる未知の楽器という印象でした。本来、音の成り立ちからロジカルに整理し組み立てていくマシンの筈なのが、ルックスは錬金術かと思う様な化学実験装置、または空想科学小説に出てくる宇宙船のコックピットの様に洗練と混沌が混ざり合わさったルックスで、そこがまた男心をくすぐる存在です。

この映画では、シンセサイザーの作り手、と使い手の両方が並列的な立場で紹介されているのが印象的です。シンセサイザーはそれ以前の実験室の巨大な機器で作られていたクセナキスや、シュトックハウゼン等の学術的電子音楽を生み出す「機器」ではなく、もっと身近な電子「楽器」としての立ち位置にあります。ギターやベースなどの他のLM楽器、ピアノやバイオリン等のクラシック楽器、などのそれまで存在した楽器と圧倒的に違うのは出荷される時点では楽器としては完成していない事です。デジタル以降のメモライズ出来るシンセはプリセットという形であらかじめ楽器としての音色が組み込まれていますが、それも本来は参考であって、シンセサイザーの本質は音色自体を劇的な変化を持って創造出来る唯一の楽器出あるという事です。それ故に楽器の作り手も演奏を知る必要があり、使い手も最終的に楽器として成立させる様に電気回路を設定し完成させなければならず、そのためのある程度の知識は必要になります。作り手のマインドと、使い手のマインドが限りなく近く、楽器を組み立てる過程と、操り演奏する過程はかなりの部分重複しているように感じます。映画でも作りと、使い手のドキュメントが並列的な捉えられていて、それがシンセサイザーらしさをより伝えてくれます。

上方文化を生み歴史的に文化のハブであった大阪の立地が、この特別な楽器を特異に熟成させる土壌として適していた事が、登場する作り手、使い手、それぞれの立場から語られていますが、歴史的立地よりも大阪特有の人の気質にある様に感じました。YMOは活動当時「東京」を「病気」とシニカルに捉えた言動をしていましたが、東京の持つやや醒めた熱中感とは違った熱量の、でも決してリニアではない熱中感ある大阪の人々がシンセサイザーをより魅力的なものに昇華させていった様に感じます。ただシンセサイザー好きの人間がそれについて語る時の楽しそうな表情は関の東西を問わず共通です。

映画のなかでは、どうしても絵的にも特長的なアナログのモジュラーシンセサイザーに焦点が行きがちにはなってしまっていますが、FMシンセの使い手であるゾンビの西田彩さん、同じくFMシンセ完成形の元祖DX-7と雅楽を合わせた世界を作り上げる「天地雅楽」の久次米一弥氏らも登場し、アナログ一辺倒ではなく、ちゃんとデジタルも含めシンセサイザーと捉えているところはニュートラルな視点で好感を持ちました。ビンテージ指向のバイアスが掛かった言葉では古いアナログが全て…といった内容もよく聴かれますが、シンセサイザーの魅力はアナログ/デジタルで線を引く類いのものではありません。映画の中でも発言がありますが、今までの方式を駆逐しその過去の機能も全て包括しながら進化するあらゆる電子機器とは違い、新しい物を今まで出てきた物に次々と加えていく進化を遂げています。デジタルになりアプリケーション化されていっても、過去のアナログや古いデジタルも使われ続け更に新しいアナログシンセも登場する…おおよそ他の電気製品ではあり得ない進化をしている…それはシンセサイザーが機械ではなく「楽器」である事が一番の要因と感じます。流行ファッションとして時代時代に突出して多く聴かれる音色はありますが、生まれた時代に関係なく演奏者に愛されたシンセサイザーは機能し続ける限り「楽器」として奏で続けられます。

映画では「大阪のシンセ界」を紹介していますが、東京にも当然「シンセ界」はあります、大阪のシンセ界のハブになっているショップ「implant4」が映画でも紹介されていますが、東京でいえば原宿の「Five-G」がシンセサイザーショップの筆頭でしょうか。イベント系で…最近はDOMMUNEへも広がっている齋藤久師氏のSYNTH BARや、西新宿にあるシンセサイザープログラマー協会直々のイベント等もありますが、たまたまこの夏「Plumsonic」のYasushi.K氏が主催されたVolca・Monotribeミーティングをご紹介致します。最近KORGという日本の電子楽器メーカーが世界中のシンセ界からも注目を集める商品を次々に世の中に出しています。極小サイズの筐体の中にアナログの楽しさを凝縮した「monotron」、過去のアナログ名機「MS-20」を小さくして完全アナログのまま復刻させた「MS-20mini」、アナログの新しい手軽なシステムを提案した「volca」シリーズ等々… 氏がそのKORGのデモンストレーターをやってらっしゃる関係もありタイトルはKORG商品を冠したイベントでしたが、意外なくらい多彩なシンセが登場しておりました(会場では脱法Volcaと称されておりましたが)。ラーメン出前でお馴染みの岡持ちにモジュラーシンセを仕込んだ、よんま氏の「おかもちモジュラー」シンセ、世界に数台しか無い金メッキのmonotribe、volcaに見立てたドイツシンセメーカーのDarktime+Dark Energy、「痛車」ならぬ美少女キャラをあしらった「痛Volca」など…。そして作り手としてオリジナルMS-20のエンジニアでもあるKORGの西島氏もお出でになり、大変貴重な試作型monotoribeの音を聴かせてくれました。自作シンセの強者から会場で初めてVolcaに触れる方も居て、全く違う立場の方々がそれぞれの楽しみ方でセッションしたりと、シンセサイザーを身近な楽しい「楽器」と感じさせてくれる非常に面白いイベントでした。

未だに進化し続ける未完成の楽器…、おそらくいつまでも未知の「楽器」であり続けるだけにシンセサイザーに魅せられる人々はこれからも増え、それぞれが作り手として、使い手として新しい魅力を加えてくれると思います。映画のラストにto be continuedの文字が現れますが、まだまだ続く「シンセ界」を感じる作品でした。次回は「東京」や「名古屋」の「シンセ界」もエグってくれる事を期待して。

「ナニワのシンセ界」は10/4-24まで、下北沢トリウッドにてロードショー。

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『ナニワのシンセ界』

[2014/カラー/75 分]
上映日時:10月4日~24日(火曜定休) 20:00~
チケット:一般 1,500円、大・専門 1,300円、シニア 1,100円、高校生 1,000円
出演・撮影協力 : 荒川伸(株式会社REON)、Unyo303、久次米一弥(天地雅楽)、ピノ作(J.M.T Synth)、西田彩(ゾンビ)、Risa 他
監督 : 大須賀淳
制作 : 株式会社スタジオねこやなぎ
http://naniwa.modularsynth.jp/

【トリウッド】
代沢5-32-5 2F
03-3414-0433
47席
火曜日定休
http://homepage1.nifty.com/tollywood/

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クロダマサノブ

下北沢の音楽や演劇、イベント、そして飲食店などの情報を勝手に紹介。アタラシイ下北沢の魅力をいち早くお伝えします [Twitter]ymkx

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