しもブロではおなじみのあの店の前を通ったとき、1枚のポスターに気がつきました。
それは、下北沢一番街商店街にある老舗そば店の『広栄屋』、ポスターには「広栄屋さんで撮影させて頂きました」とも書かれてる。しかも、まさにこのポスターを見た2月22日から、シモキタ – エキマエ – シネマ『K2』で上映が始まったとか。こんな形で映画を知る事は初めてだけど、折角なので映画「ラストホール」を観ることにしました。
-STORY-
“忘れられない”を乗せて走る。
父親の死から背を向けて生きてきたダンサーの暖。
6年後のある日。踊ることを辞めた暖は故郷からやってきた幼馴染の壮介によって、父の残した一枚のメモを辿る旅へと連れ出され、やがて咀嚼できない想いを飲み込んでいく。
作品の序盤から中盤にかけて感じていた想いと、あるシーンを超えてからラストに至るまでの感情がここまで解離している作品も珍しい。監督であり主演の暖(だん)を演じる秋葉美希の表情が、その全てを現している。そこに何を書いたのか、そして何を知るに至ったのか。6年越しのメッセージに向き合う暖の姿はただ愛おしく、彼女が躍動する様に心が揺り動かされる。
広栄屋の、あの自分もよく座るテーブルが、映画館のスクリーンに映し出されるのはとても不思議な感覚だ。あのお店の放つ言葉にできない味わい深い空気感が、スクリーンを通して伝わってくる。また1つ、下北沢の今を記録した作品に出会うことができたことに感謝したい。
あまり書くとネタバレになってしまうので、レビュー的なモノはこのくらいに留めておきますが、とにかく不思議な出会い方をした映画でした。世代的には自分は父親側に近く、そういう意味でもグッとくる作品で、ある意味贅沢な71分間でした。パンフレットに主演お二人のサインを入れていただき広栄屋の話もしましたが、これまた不思議な縁を感じるお話を聞くことができました。

上映後のトークショーで、2月27日までの上映予定が好評につき3月6日まで延長することになったと聞き、その瞬間「もう一度観たい」と思いました。トークの中で広栄屋以外にも色々下北沢と縁がある事も知りましたので、余計にそう思いました。

そして3月6日、K2での最終上映で2回目の鑑賞。上映後のトークイベントで暖の父親役を演じた川瀬陽太さんの話がどうしても聞きたかったからでしたが、やはりこの映画は2回目で受ける感覚が全く違う作品でした。ある意味ギリギリまで削っており、敢えて説明的な台詞が存在しない。フィクションでありながら、その世界におけるリアルをしっかりと感じ取ることを要する作品でしたね。もうそこにはいないはずなのに、その存在を感じさせてくれること。本当に素晴らしい作品でした。
そして、終演後のトーク、川瀬さんがいたからこそ成立した作品であることを感じました。1回目とはまた違う裏話も聞くことができ、やはりこの最終上映に来てよかったと改めて感じました。K2での上映は終わりましたが、下北沢も(ちょっぴり)舞台となったこの作品に出会うことができてよかった。改めて、広栄屋に感謝しかありませんね。
そうだ、最後に最も印象的に残ったシーンのことを書いておこう。
それは、パンフレットにも台本が載っていて、秋葉さんと田中さんも対談で語っている「メタセコイヤ並木」。暖と壮介が、おっちゃんの軽トラのライトに照らされ二人で夜道を歩いているシーン。ここまで来て、この物語がなにを描いているのかハッキリと分かるシーンなのですが、とにかく二人の距離感がサイコーなのです。あの、歩道にかかってた曲がった草に引っかかりそうになる、あのシチュエーションがより色づけしてくれましたね。偶然なのかも知れませんが、、、。
改めて、映画「ラストホール」に出会えてよかった、私が大好きな下北沢の街で出会えてよかったです。
映画「ラストホール」
出演: 秋葉美希 田中爽一郎 高尾悠希 優美早紀 吉行由実 森羅万象 鈴木卓爾 川瀬陽太
監督・脚本:秋葉美希
撮影:松田亘
照明:藤井光咲
録音・整音:竹内勝一郎
助監督:可児正光
制作:鹿江莉生
宣伝デザイン:喜多美織
宣伝協力:工藤憂哉
配給:KUDO COMPANY
音楽:春木真里奈
<2023年/71分/G/カラー/日本>
ARTS for the future!2 助成作品
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