『Kay』『終点は海』トリウッド 『Kay』『終点は海』トリウッド

[レビュー]『Kay』『終点は海』トリウッドにて4/29まで上映、出演者登壇のトークイベントも連日開催

2022年4月9日に下北沢トリウッドで公開初日を迎えた、小編映画『Kay』『終点は海』、トリウッドでの上映は4月29日までとなりました。しもブロでは作品概要インタビュー初日舞台挨拶についてお伝えしてきましたが、両作品のレビューをお送りします。

しもブロの映画や舞台などのレビューは原則作品の内容や演出には触れない内容としていますが、どちらも23分の小編映画ということもありなかなか内容に触れずにお伝えすることは難しいため、今回はある程度ネタバレありのレビューとなります。

『Kay』
『Kay』

『Kay』あらすじ
景気に翻弄され雑草のように生きた父・太一と、離別した娘・ケイとの小さな物語。成人祝いの居酒屋で太一との心の距離感が縮められぬケイがいた。そして太一の突然の死。そこからケイなりの父親探しが始まる。遺品のエレキ・ギターを背に思い出の居酒屋に立ち寄ったケイは時空を超え、太一というひとつの人生に向き合い、やがて太一のある言葉が、親子関係を超え、一人で生きる「種」となり立ちあらわれる。不確かな「理想の家族」のあり方、コロナ渦で見失った生きることの意味を、強靭な魂で問う作品。

父が亡くなり49日を迎えたケイは、遺品整理をしている母から年季の入った皮のケースに入ったギターを受け取る。音楽をしておりギターを欲しがっていた娘に父親の形見を託すのは母親としては当然のことだが、娘からすると色々な意味で複雑で面倒な気持ちになってしまう。というのも母と離婚し捨てられる形となった娘として、父に向ける感情の複雑さはその死を持ってしても容易に割り切ることはできない。しかし、そのギターを受け取ったことで、ケイに生前の父とのやりとりが蘇る。

ケイを演じた七瀬可梨は、この作品が初主演。母や父とのシーンでは、20代の娘という素直になれない表情や仕草を見事に表現し、セリフのみに頼らずこの物語における人と人との関係を伝えてくれる。印象的なのは友人・ユウ役を演じた伊藤歌歩とのシーン。その時のケイの表情が、母親そして父親とのシーンの意味をより確かなものにしてくれる。それは物語終盤、ケイの父のギターを見て純粋にその価値を話す彼女の言葉や表情にも表れ、ケイの心を動かすきっかけにつながる。

父のギターを弾こうとするが弾くことができない、そんな自分に対峙することで、初めて父のことを受け入れる。生きることの価値や重みを受け止めこれからも生き続けること、23分間の作品の中に込められたメッセージは、生きづらさを抱える多くの人たちに勇気を与えてくれるだろう。


『終点は海』

『終点は海』あらすじ
5年前に喧嘩別れし、突然消息を絶った息子・レンが母・明子のもとにふらりとあらわれる。その月日、明子の生活は彩りを失い、病と貧しさを抱え、孤独を抱えていた。二人の葛藤の深い淵を埋めようと、レンは明子を「終点」となる海へ連れ出す。寒風吹きすさぶ季節はずれの海辺に焚かれた焔が、母と子の永遠の離別を照らしだす。あえて4:3の画角で切り取った、二人の心象風景から見えるものは何か…もの静かで強靭な映像の言葉が満ちた作品。

レンがスクリーンに登場した瞬間から、なんとなく違和感を感じていた。母・明子とのやりとりを通じてもその違和感は常にスクリーンから発し続けられ、終点となる海でそれがなんだったのか明らかになる。レンとのやりとりを通し、時が止まったように生きてきた明子が、終点であったはずの海から再び歩み始める。

レンを演じた清水尚弥がインタビューや舞台挨拶で語っていたのは、初めて死者を演じることの難しさ。どのように演じるのかについて、過去の母との関係性やこの物語の中でそれが変化する点も踏まえ、鯨岡監督としっかりと話し合ったこともあり、言葉では表現しがたい違和感が演出されている。そんな、レンという存在に向き合う明子、23分間の作品の中で彼女が発する意識の変化を、見事に演じきった洞口依子という役者の素晴らしさをしっかりと感じることができた。

そしてこの作品を語る上で、音について触れないわけにはいかない。波の音や焚き火の燃える音、様々な生活音、そしてシーンを彩る音楽。二人のお芝居そして映像に対して、さらなる説得力を持たせているのはこれらの音たちだ。音楽を鯨岡監督が担当していることもあり、全ての一体感が見事としか言いようがない。

終点の海から自宅に戻った明子は、海に向かった時点とは確実に違う存在になっている。自らが生きていること、しっかりと生き抜く事をもう迷うことはない。『Kay』とはまた違う意味で、生きる事の価値を私たちに伝えてくれる作品だ。


『Kay』そして『終点は海』、”親を亡くした子”と”子を亡くした親”という立場の違いはあれど、どちらも生きることの意味や価値を改めて考えたくなる小編映画です。初めて見たときから、自分自身も生きることの意味を深く考え続けています。コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻により、それまで当たり前だった日常が失われ、さらには生きることまで脅かされる現実を目の当たりにしてきました。そんなタイミングだからこそこの2作品が放つ生きることの尊さは、観る側の心を大きく揺り動かすことでしょう。

それにしても鯨岡監督による亡くなった人の演出は、素晴らしいの一言に尽きます。人は亡くなっても、人の中で生き続ける、小編映画『Kay』『終点は海』はそんなことをはっきりと感じさせてくれる作品でした。ちなみに、トリウッドでもチラシが配られていますが、同じく鯨岡監督が撮影したショートムービー『おどりなき夏』でも、その素晴らしい演出を感じることができます。5分28秒、YouTube等で視聴できます、ぜひこちらも観ていただきたい作品です。

『Kay』『終点は海』は、2022年4月29日(金・祝)まで下北沢トリウッドにて公開。4月27日(水)19時の回は『Kay』に出演した伊藤歌歩さんと鯨岡弘識監督、28日(木)19時の回は『Kay』に主演した七瀬可梨さんと鯨岡弘識監督、そして最終日となる29日(金・祝)は『終点は海』に出演した洞口依子さん(リモート)と清水尚弥さんと鯨岡弘識監督が、それぞれ上映後にトークイベントを行います。ぜひ、この機会をお見逃しなく。

下北沢トリウッドは上映日前日の0時からネットでの予約が可能です。トークイベントに参加されるの皆様はチケット予約をオススメします。ご予約はトリウッド公式サイトの上映スケジュール及び作品紹介ページから行えます。ぜひ、トリウッドでご覧ください。

[上映スケジュール]
4/25(月)~28(木) 13:00/19:00
4/29(金祝) 12:30/18:30

[料金]
一般 1,200円
大学・専門・シニア 1,000円
高校生以下 900円

映画『Kay』『終点は海』
映画『Kay』『終点は海』

『Kay』(2020/日本/16:9/HD/23分)

出演: 七瀬可梨、小沢和義、片岡礼子、伊藤歌歩
監督: 鯨岡弘識
脚本: 中嶋雷太/鯨岡弘識
原作・原案: 中嶋雷太著「春は菜の花」
撮影: 平見優子
照明: 日比野博記
録音: 小牧将人
ヘアメイク: 菅原美和子
衣装: Ka na ta
プロデューサー: 内藤 諭
エグゼクティブ・プロデューサー: 中嶋雷太
製作: 中嶋雷太
配給: Raita Nakashima’s Cinema

『終点は海』(2021/日本/4:3/HD/23分)

出演: 洞口依子、清水尚弥
監督: 鯨岡弘識
脚本: 鯨岡弘識
撮影: 佐藤宏樹
照明: 日比野博記
録音: 小牧将人
ヘアメイク: 菅原美和子
宣伝プロデューサー: 石原弘之(株ポルトレ)
プロデューサー: 内藤 諭
アドバイジング・プロデューサー: 中嶋雷太
製作:内藤諭、鯨岡弘識
配給: Raita Nakashima’s Cinema

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